黒の帰路

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

黒の帰路

チェックアウトの朝。 フロントで手続きを終えた私達を、昨日同様スタッフの人達が入口前でお見送りしてくれた。 「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております!」 ドスの利いた声に見送られ、支配人自ら運転する黒塗りの高級セダンに乗り込んで、港へと向かった。結局、最後まで大幹部待遇だったな。 「お客様、当ホテルはいかがでしたでしょうか?」 「とっても楽しかったですよ~、ホテル」 「Crni Hotel(セルニ・ホーテル)だって! 失礼でしょ!」 麗奈ってば、盛大に跡を濁してくれちゃうんだから。 「いえいえ、お気になさらず。改名をすべきかもしれません。❝せるに・ほ~てる❞にみましょうか」 「そういう事じゃないと思いますよ」 支配人さんがこの感性なら、このホテルはずっと謎ホテルのままだろう。なんだかホッとした。 車は5分もかからず港へ着き、車から降りた私達を支配人さんが船の前まで見送りにきてくれた。 「この度のご利用、誠にありがとうございました。どうぞお気を付けて!」 「ありがとうございました~。お弁当開けるの楽しみにしてま~す!」 麗奈の腕には、女将さん特製ののり弁当が入った包が抱えられていた。 「どうもありがとうございました。……また来まーす!」 私も大きな声で返して、船に乗り込んだ。 帰りの船に揺られながら、今回の旅の事を思い出した。 最初はどうなる事かと思ったけれど、❝終わりよければすべてよし❞かな。 それにしても不思議な感覚だ。黒といえば威厳があって隙のないイメージなのに、あのホテルは❝隙だらけの黒❞。でも、そんな黒がたまらなく好きだ。 「また行きたいな……」 対岸に着くまでの間、目を閉じて黒い闇の中に浸る事にした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加