黒の玄関前

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黒の玄関前

翌日、❝旅のアプリ❞のナビに従って目的地まで移動する事に。 電車とバスを乗り継いで港へ。そして港から船に乗り、ホテルのある島を目指した。 ❝黒のツアー❞はホテルに着く前から黒にちなんでいた。ホテルがある島は❝黒島❞という名前で、乗り込んだ船は船体が黒く塗られた観光船。 「この辺りは黒潮が流れていて、アジやサバ、クロダイなんかも釣れるらしいで」 「へぇー」 乗り合わせたお客さんの会話からも、黒にまつわる情報が出てきた。 片道30分程の船旅で降り立った黒島は、ぐるっと回っても1時間もかからないくらいの小さな島だけれど、自然豊かで見所が多かった。日焼け止めが必須なほど激しく燦々(さんさん)と照りつける太陽が、牧場で草を食む馬の、筋肉質で黒々とした毛並みを輝かせていた。日差しを避けるように入った森の中には、珍しい黒い板葺きの教会が建っていて、窓から黒い修道服に身を包んだ牧師さんやシスター達の姿が見えた。 初めての土地でも、アプリのナビのおかげで迷わず スイスイ進める。もう画面上にはホテルの場所が500m先に表示され、同時に路上の黒い立て札に ❝Crni Hotel ⇒500m❞ と書いてあるのを見つけた。 「優子、これなんて書いてあるか読める~?」 「いや、無理」 ❝Hotel❞はともかく、先頭4文字はさっぱり読み方がわからない。とはいえ、ナビの示す方向と一致しているから、ここが今回の宿なのだろう。 とうとうホテルの前まできた。 黒塗りのコンクリートで出来たホテルは、開業して日が浅いのか、外壁はひび割れ1つ無い。お庭も広そうだし、これは期待出来そうだ。 でも、何か様子がおかしい。 建物の周りを、黒いスーツに身を包んだ男の人達が絶えずウロウロしている。皆一様に真っ黒いサングラスをかけていて、レンズの奥の表情を窺い知る事は出来ない。時折スマホやインカムを使って何か連絡を取り合っている。 入口付近には、黒い着物に金色の帯を締めた若い女性が凛とした佇まいで周囲に目を配っている。なんだろう、この建物の周りに漂う威圧感は……。だんだん不安になってきた。
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