12人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
今度は廊下から忙しそうな足音が聞こえた。最初はうるさい私達へのクレームかと思ったが、すぐに通り過ぎていった。
「何だろう?」
念の為、正体を確認しに廊下に出ると、奥の階段を、サスペンス物のドラマやマンガでちらつく怪しい黒い人影が走り去っていく姿が見えた。
やっぱりここは普通のホテルじゃないのか。急いで階段まで追いかけたが、誰もいなかった。
部屋に戻ろうとすると、ドアの前で黒いかたまりが蠢いていた。黒い絨毯が保護色になって見づらいその正体は、
「うさぎ?」
かわいらしい真っ黒な子うさぎだった。
何でこんな所にと思いつつ、おなかの下にゆっくりと手を入れて、ひょいっと胸の高さまで持ち上げた。うさぎの持ち方には自信があったので、暴れずに腕の中に収まった。
「あの……」
振り返ると、さっきの不気味な黒い人影が私を見下ろしており、
「わぁーー!!」
思わず悲鳴をあげてしまった。
「良かった! お客様が捕まえて下さったんですね!」
「はっ、はい!?」
その正体は、黒いウェットスーツに身を包んだ男の人だった。
「申し遅れました。私、コンシェルジュの黒田と申します。この子は当ホテルの看板うさぎ、ラパン・ノアール君です」
「えっ、うさちゃんも!?」
「はい。やんちゃな所がございまして、先程もケージから脱走した所をここまで追いかけてきた次第でございます」
「あの、ちなみに何でそんな格好を……?」
「はい、当ホテルでご案内しております、スキューバ体験のトレーニング準備をしていた所、この子が……」
「色々やってらっしゃるんですね……」
悪気はないんだろうけど、なんだかこのホテル落ち着かないな……。
最初のコメントを投稿しよう!