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黒の夕べ
夕食までは、まだだいぶ時間があったので、まずは今までかいた嫌な汗を流しに、大浴場へ向かった。
「あ~、いいお湯だった~」
「ホント、お肌スベスベだわ」
美肌効果のある黒湯があふれる、黒い岩で出来た露天風呂に浸かり、夕陽の沈む大海原を眺めながら癒しのひと時を得る事ができた。
大浴場からの帰り道、客室との中間にあるロビーで暇つぶしをする事に。麗奈はおみやげ選びに売店へ、私はロビーの隅の❝インターネットコーナー❞に腰掛けた。
コーナーと言っても、小さな机に黒いノートパソコンが1台のシンプルなものだ。今時、ネットは個人のPCやスマホで事足りるので、どこのホテルでも使っている人は滅多にいないけれど、たまには使ってみるか。
検索エンジンからSNSにアクセスし、他のミステリーツアーの情報を確認すると、
❝『白のツアー』ギリシャ風の白壁コテージが映え過ぎて日本じゃないみたい。流れる風もまじミコノス! ❞
❝『ピンクのツアー』引いた時は「アチャ〜」と思ったけど、桃園の中で食べ放題グランピングとかまさにリアル桃源郷!❞
「う、うそ……」
私の独断と偏見でハズレ確定だと決めつけていた他のツアーのカキコミはどれも高評価で、隣の芝生が眩しいくらいに青く感じてしまった。
「あら、何かお調べですか?」
黒の着物の和服美人に声をかけられた。玄関前を立派に仕切っていたこの人は姐さ……じゃ無くて若女将らしい。
「あっ、ちょっと敵情視察を、ハハハ……」
「そちらのSNSの背景は黒がデフォルトですが、実はCEOの方がお忍びで当ホテルにお泊まりになられた際、インスパイアされて変更なさったとか」
「えー、それはすごいですね」
さすがに❝前より見辛くなったんですけど❞と面と向かって言えなかった。本当だとしたら、余計なインスパイアをしてくれたものだ。
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