シトラス、ゆびきり、きみの

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「アメリカに行くのなんか中止になっちゃえって、なんどもなんどもなんども呪いみたいに願ったよ」  あまりにも清々しく言われ、面食らう。なんて爽快な呪いだろう。 「でもね、いまは違うんだよ」 「違うって……。じゃあ、なに?」 「いまは、ぼくがすごーい陸上選手になって、海外の大会なんかにもでちゃって。そういう姿が何千キロさきまで届きますように、すこしでも近いところに行けますようにって願ってるよ。ライバルはたくさんいるし、簡単なことじゃないのはわかってるけど。ねえ、笑わないで聞いてね……。願うって、誓うことなんだよ。がんばろうって、じぶんにゆびきりするために願うんだよ」  地を蹴り、風をきり、魂を削るようにグラウンドを走るきみの姿を思い起こす。胸を刺す痛みは棘のように鋭く、哀しいほどあたたかくて。  返す言葉に詰まっていると、きみは蛇口をひねったみたいにぼろぼろぼろぼろ泣きだした。全身で泣いていた。わたしはそれを両手いっぱいに抱きしめた。  子どもみたいだね。きみが笑う。赤ちゃんだよ。わたしが笑う。
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