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やがて夏を纏ったきみの腕が、わたしの背中をつつんだ。
――わたしたち、いま、満月のなかにいるね。
きみがつくった満月にわたしが、わたしがつくった満月にきみが。
答え合わせのように目を合わせ、ふたりでふふっと笑みをこぼした。
そうして嗚咽の止んだきみは涙で濡れた頬をむき出しにしたまま、わたしに言った。
「むこうで……。すきなひととか、彼氏とか。そういうひとができたら、いちばんにおしえて。だれよりも、さきに」
「わかった。おしえる。そっちもなにかあったらおしえて。わたしに、いちばんに」
「うん。おしえる。彼氏なんてできる気しないけど」
「……そんなことない。できるよ、きっと」
きみは陽だまりみたいにはにかんだ。
かすかな喉の渇きを感じながら、わたしたちの関係はなんだったのだろうと自問する。
この形容しきれない関係はこれからさきどうなるだろう。きみはだれとこうして新月をむかえるだろう。
「なんだか元気ないけど、どうしたの?」
そう言って顔を覗き込んでくるきみは残酷に無邪気で、だからわたしは
「なんでもない」
とそれを守る。
満ちたり、欠けたりを繰り返しながら、いつかわたしたちはまったくべつのものになってしまうのかもしれない。さきのことは、わからない。
それでも願わずにはいられない。
だって、新月だから。
――いってらっしゃい。
新月よりもつよく、シトラスが薫った。
――了――
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