40人が本棚に入れています
本棚に追加
3.
☆☆☆
「なんだ。私の出番は終わったのではないか?」
かつて魔王と呼ばれていたフライムートが、ベッドの上で本から視線をうつさずにそう言った。
その姿は、勇者御一行が魔王と対峙したときと同じ、黒い髪の黒い瞳。あのときと違うのは、長い髪を一つの三つ編みにしているところだろう。
(あ、かわいいかも)
三つ編みにしている魔王の姿は、ユリアナの心をくすぐった。読書のためには、その長い髪が邪魔なのだろう。
「ええと。具合はどうかな、と思って。お見舞いに来てみました」
両手をお尻の後ろで組んで、えへっと笑いながら、ユリアナは答えた。
「見舞いだと?」
やっとフライムートが読んでいた本から顔をあげ、ユリアナに視線をうつした。
「その割には手ぶらじゃないか」
見舞いというのが、今考えた口実であるということがバレてしまったようだ。
(正直に、勇者との結婚が嫌だから逃げてきた、って言ったほうがよかったのかな)
そう思っていたら、どうやらユリアナの顔にその考えが出ていたらしい。
フライムートは不審者を見るかのような鋭い視線をユリアナに向けた。いや、不審者ではなく侵入者である。
最初のコメントを投稿しよう!