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──私は生きているの?──
穏やかに恐怖が揺れている。気づくと雨は上がっていた。雲の切れ目から陽が射している。
私はギリギリ顔を上向きにしてなんとか鼻を出して呼吸をしている。大量に酸素が欲しくて口を開け吸い込もうとすると恐怖が口に流れ込んで、まともに声も出せない。アウアウと奇妙な声をあげるのが関の山だった。
目を見開くと誰かが私を覗き込んでいるような影が見える。助けてと叫びたかったがもう叫ぶ気力が出ない。
──早く、手を差しのべて欲しいっ──
生い茂る木々に囲まれたこの貯水池に木々の葉っぱから水滴がポタポタと落ちてくる。陽に照らされ水滴が輝いている。
その輝く一滴一滴がまるで私の命のカウントダウンのように感じた。一滴でも恐怖が増す。わずかに増す。また一滴落ちる。恐怖が増す。恐怖が増す。恐怖が増す。真綿で首を絞めるようにジワリジワリと恐怖の揺らぎが私を沈めようとする。
人影は何か私に話し掛けている。微かに聞き取れる。
「無事に子猫はもと居た場所に還ったわよ……いるべき場所にね……」
──あぁ、無事に帰ったんだ……良かった──
意識は徐々に遠退いている。声は遠ざかる。微かな言葉が聞こえる。
「そう、還ったわよ……無事にね……」
私はすでに考える力を無くしている。今考えられることはあとあの水滴が後、何粒落ちれば私は沈みこの恐怖から解き放たれ楽になれるかだっ……。
──あぁ、あと何滴の水滴で私は楽になれるんだろう──
また綺麗な水滴がポチャンと落ちた。
──あぁ、また水嵩が上がるぅ──
ポチャン──
──あぁ、また水嵩が上がるぅ──
音が微かに聞こえる度、私は呼吸を奪われていった……。
〈了〉
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