水面から見上げる雨上がり

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 私は小さい頃、まだ一人でお風呂に入るのが困難な頃に自宅の浴槽で溺れかけたことがある。あれは父さんが私をひょいと抱えあげ湯船にゆっくりと浸からそうとした時だ。身体を洗った石鹸の泡が床に残っており父さんはそれに足を取られ滑らせた。それと同時に私は浴槽に投げ出された格好になり頭から湯船に落ちた。父さんは後ろ向きに倒れ強く頭を打ち気を失ってしまった。私はそのまま頭から沈んだ格好になった。今まで安全だと思っていた入浴が一瞬にして恐怖へと変わった。私は手足をばたつかせた。しかし暴れれば暴れるほど身動きが取れず、狭い浴槽で顔を上げることが出来なくなった。ボコボコと水中でする音が恐怖の音へと変わり、暴れても暴れても身体を捻らすことも出来なかった。そのうち水もかなり飲んでしまい、呼吸も出来ないまま意識が遠退いていった。父さんは倒れたままだった。私の状態に気づけない。たまたま母さんが着替えを持ってきてくれた時に緊急事態に気づき私を引っ張り出してくれた。後少しでも遅ければ私はそのまま沈んでいた。それ以来、私はトラウマとして浴槽やプール、まして洗面器に張った水にも顔を浸けることが出来なくなった。  シャワーでなんとか凌いでいるくらいに浸かるという行為が無理になってしまったのだ。
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