水面から見上げる雨上がり

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 そして今……私はあの恐怖()を再び味わおうとしている。頭から沈んだあの時とは状況が違うが身動きが取れないのは一緒。それに私の顔を覆い尽くそうとする恐怖がどんどん迫って来る。  雨はまだ降り止まない。降り止むどころか強くなる。顔に恐怖が流れる。もう夜なのかというほど暗くなった。狭い貯水池から聞こえるのは遠くで雷の鳴る音、そして尋常じゃない雨音。上を見上げるとコンクリートのひび割れた隙間から勢いよく恐怖が流れ込んで来る。腰の辺りまで恐怖が来ている。もう足を動かせるかどうかのレベルではない。何か足首を掴まれている感じがする。 「助けてぇ、助けてぇぇぇ」  私の声は強い雨と強い風で……そして頻繁になる雷で掻き消される。ましてこの強い雨風に雷ではこの辺りを歩く人間などいないだろう。  恐怖がとうとうお腹の辺りまで来ている。貯まるのが早い。いや私の身体が沈んでいくのが早くなっているのだ。 「沈む、沈むぅ……水が水が水が……迫ってくるぅぅぅ! 助けてぇぇぇ」
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