水面から見上げる雨上がり

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 すでに肩まで恐怖が増しきた。大量に降り注ぐ雨は顔を濡らす。恐怖の滴が顔を流れる。 「た、助けてぇ……お、溺れる……お、溺れる」  意識が遠退く。過去の記憶が甦る。 「足を、足が誰かに掴まれてる、離して、離してぇぇぇ」  ぬかるんだ足元はまるで誰かに握られているような感覚だ。しっかりと掴まれ、このまま引きずり込まれる気がした。なんとか動く手を必死でばたつかせる。バシャバシャと恐怖を叩いてもどうにもならない。濁った恐怖と強烈な雨粒で私の顔を汚していく。  コンクリートの割れた隙間から勢い良く流れ込んで来る汚れた恐怖はまるで私をあの世へ導くかのようだ。 「もう、だめ……もうだめっっ」  とうとう私の顎まで恐怖が押し寄せる。口に流れ込んで来る恐怖。口から吐き出すが吐き出しても吐き出して恐怖が流れ込んで来る。意識が飛び飛びになる。 「た、助けて……お、おぼれる……お、ぼれ……る……」  あの時のボコボコとする音が私に迫って来た。
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