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「乗って」
「え、如月さんの車?」
「俺の車以外になにがあるの」
ふっと笑って、助手席のドアを開けてくれる。
「ありがとうございます……」
「いーえ」
助手席のドアを閉めて、運転席へと乗り込んだあとはエンジンをかけて車を走らせる。
「家知らないから、ナビに住所打って」
「……はい」
カーナビを操作して自分の家の住所を打ち込む。
その後は何を話したらいいかわからないし、気まずい沈黙が流れる。
「合コン、どうだった?」
沈黙を破ったのは如月さんだった。
「色んな人と話しましたよ。後半はほぼ正力さんと話してましたけど楽しかったです。みんなイケメンでした」
「……そうか」
前を向く如月さんの表情は読み取れない。
「でも、気持ちは変わらないですね」
「……馬鹿だな」
「馬鹿ですよ。突き放されたって、好きな気持ちはなくならないんですよ。如月さんだって大好きな元カノのことをそう簡単に忘れられるものじゃないと思いますけど」
「……しってたんか」
チラッとあたしをみた如月さんは、少し瞳が揺れていた。
「でも、如月さんがどうしても自分のことを好きな女が迷惑っていうならもう近づきませんの安心してください」
「……俺は」
「あっ、あたしの家です。送ってくれてありがとうございました」
如月さんのこれから紡ごうとしている言葉に自信を持てなくて、彼の言葉を聞かずにドアに手をかける。
「好きな人に合コン行くように言われたらなかなか悲しいもんなんですよ」
何も言えずにいる如月さんに「おやすみなさい」と頭をさげて、車からおりる。
もう少し一緒にいたかったなんて思うけど、何を言われるかわからなくて一緒にいるのが怖いとも思う。
「交わらない思いって辛いなぁー……」
中途半端に優しくされるのがいちばん辛い。
久しぶりに視線が交わって、嬉しいはずなのにそれ以上につらくて、家についてすぐにベッドにダイブした。
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