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「あれ?なにもかってこなかったの?」
戻るとちょうどシャワーから出てきたところだったようで上半身裸で髪の毛をタオルで拭いていた星那が手ぶらのあたしを見て首を傾げる。
「財布忘れちゃって……」
「ドジだなぁ。乾かしたら一緒にいく?」
「うーん……ちょっと甘えたい気分だから、家にいたい」
「なんだー?そんな可愛いこと言っちゃって。ちょっとまっててな」
あたしの頭を撫でて、ドライヤーを手に取る。
はやく、星那にくっつきたかった。
なにもしてないと頭に浮かんでくるさっきの2人の残像を早く消し去りたかった。
心のモヤがなくならなくて、星那にくっつくことでしか心の平穏は保てなさそうだ。
「どした?なんかあったか?」
乾かし終わった星那があたしの隣りに座って覗き込んでくる。
「ううん、ただちょっと久しぶりだったからくっつきたいだけ」
「ほーんと可愛くて困っちゃうね」
フッと笑ってあたしのことを抱きしめてくれる。
「最近、出張と遠征が重なってあまり会えなかったもんな」
「……うん、今日会えたの嬉しい」
口にはしてみるけど、実際は少しくらい会えないくらいなんともなかった。
でも、智史のことで乱れた心を取り繕うのには便利な言い訳だった。
どうしてこんなにも星那が好きなのに、簡単に気持ちを乱されしまうんだろうか。
智史の声久しぶりに聞いたなとか、星那の前で考えてしまうあたり何も前に進めてないのかもしれない。
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