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「せめて理由を教えてくれない?」
星那の懇願するような瞳に耐えきれず「あたしね……」と少しずつはなす。
星那は「うん」と優しい声色で相槌を打ってくれて、冷めきっていた心は少し和らいでいく。
「前の彼氏、そうやってアピールしてきたぽっと出の女にとられたの。だから、そういうことを嬉しそうに話題にする人は嫌い」
さすがに智史だとは言えなかった。
星那は何も悪くないのに、星那のせいにしないとやってられなかった。
「嫌い」なんて言ったあたのしの言葉に星那はピクっとしていたのがわかる。
「愛來の気持ちも考えないでごめん」
「知らなかったんだし、しょうがないよ。でも今日はごめんね。頭を冷やしたいんだ」
「送るよ」
帰ることは納得してくれたっぽい星那がテーブルの上にある車のキーを手にする。
「送ってくれなくていい。今日はもう1人になりたい」
キーを持った手を握ってあたしは首を横に振る。
「じゃあ、せめてタクシー乗ってって」
「……わかった」
このままじゃあ素直に帰して貰えなさそうだから、頷くとスマホの廃車アプリを操作してタクシーを呼んでくれる。
「支払いもクレカで済んでるから、何も考えずに家に帰ってゆっくりして」
「……ありがとう」
「明日また連絡するから。愛來の気持ちが落ち着いてたら会おう」
「……うん」
全部ただのあたしのワガママでしかなくて、星那にとっては理不尽なことのはずなのに、どうしてこの人はここまで包容力がすごいんだろうと感心する。
本当は星那に抱きしめてもらって気持ちを落ち着かせたいのに、そんな心の余裕ももうなかった。
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