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「温泉、入ってきます」
「えっ!?愛來ちゃん!?」
頭を冷やしたくて、そしてここにこのままいることはできなくて、みんなに背を向けて今度こそ暖簾をくぐる。
──莱久とはもう何も無いっていったよな?
冷たい表情と言葉が頭から離れなくて、どうしたらいいか分からない。
星那が悪いわけじゃない、でもあのままだと完全に莱久さんの言葉を信じるのが目にみえていた。
あそこで否定したら良かったんだけど、あたしを信じて貰えなかったらって怖気付いてしまった。
結局あたしも星那のこと信じてないってことになるよね。
「愛來ちゃん」
温泉につかっていると隣に柚月さんが入ってくる。
「ゆ、づきさん」
きちんとした言葉にはならなくて、結月さんの顔を見た途端涙が溢れてくる。
「あらら」
「すみません」
「我慢しなくていいよ。泣きたいだけ泣きなよ」
「……ありがとうございます」
誰もいないことをいいことに声を上げて泣くあたしをずっと「あんなふうに言われると辛いよね」って慰めてくれる。
「愛來ちゃん、そろそろ出た方がいいかも」
「え?」
「顔赤い。あたしより先に使ってたから結構長くぬつかってるんじゃない?」
とりあえず泣きまくってたら時間なんて忘れてて、柚月さんの言葉にハッと我に返ったときには多分もう遅くて、頭の中はふわふわしていた。
「もうー、我を忘れて入りすぎじゃん」
「あっ、やば……」
温泉から出ようと動き出したあたしの意識はもう朦朧としていて、でも手放しそうな意識のなか頭に浮かぶのは星那の顔だった。
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