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「みなさん、入社おめでとうございます。営業第1部部長の如月です」 紺のスーツにストライプのネクタイ。そして、無造作に上げられた前髪とキリッとした鋭い瞳。 ひと目でこの人はおそらくオシャレな人だと思う。 壇上で話す男性の姿に、心臓がドクンッと波打って彼から目が離せなくった。 「愛來(あいる)ちゃん?」 1点をみつめたまま動かなくなったあたしに隣に座る同期の早瀬が「大丈夫か?」と聞いてくる。 「……えっ、ああ……いや」 如月さんが話終わるまであたしの目は1点を見つめたまま動けせなくなっていた。 「愛來ちゃん、もしかして……「言わないで」 まだ自覚するには早すぎるその気持ちを、ほかの人に口にされたくなかったし、まだ認めたくなかった。 でも、彼を見てから熱くなる胸に誤魔化してはいられない気がした。 「如月さんが俺の教育係なんだよ」 「そ、そうなの?」 「愛來ちゃんは受付だよね」 「そうだよ」 先日大学の卒業式を終えたあたしは、今日からここKRY商社の受付として入社した。 入社式でどんな出会いがあるかワクワクしていた昨日はまさかこんな胸が高鳴る出会いがあるとは思ってもいなかった。 「俺、如月さんのこと愛來ちゃんに紹介してあげるね」 「いや、だから黙ってって」
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