隙間風

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 その日の僕はとても疲れていた。残業が終わり、ヘトヘトになりながら終電近くの電車に乗り込んだ。深夜という事もあり、車両内には僕を含めたった2人しか乗っていない。  僕はドア横の席にドッと座り込んだ。もう一人の乗客は3~40代くらいの男性で、僕の向かい側の席に俯いて座っていた。  車内は実に静かなものだ。聞こえてくるのは、ガタンゴトンとレールのつなぎ目を通過する時の音と、ドアの細い隙間を通る風の音だけだった。隙間風の音はヒューヒューと口笛のように鳴っていたが、時折人間の唸り声のようにも聞こえた。深夜、人が少ない電車でそんな音を聞くのは、なんとも不気味なものだ。  会社から自宅までは約1時間半はかかるので、僕は揺れる電車に身を任せ、一眠りつく事にした。隙間風の音を聞いているうちにうつらうつらし始め、眠りに入ろうとした…その時、僕は妙な音に気が付いた。  風に交じって、何かの泣き声のような音が聞こえてきた。耳を傾けると、その音は、オギャーオギャーと赤ちゃんが泣いているようだった。 『外に赤ちゃんを抱いた人がいるのかな?』  僕は目を覚まし、窓の外を見た。  電車は走っていた。車両内もさっきと同じく2人だけなので、赤ちゃんの声など聞こえるわけがないのだ。 『空耳かなぁ…?』  隙間風の音が泣き声のように聞こえただけなのかもしれない。気のせいかと思いつつ、僕は再び眠ろうとした。 「オギャー‼オギャー‼」  僕はまた目を覚ましてそれを聞いた。幻聴なんかじゃない。間違いなく赤ん坊の泣き声だ。 『い…一体どこから聞こえてくるんだろう…!』僕は辺りを見回した。すると、突如ドアの窓をドンと叩く音がし、僕は吃驚して振り向いた。  あまりにも悍ましい光景に、背筋が凍った。
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