隙間風

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 走行する電車の窓に、全身血まみれの女がベタッと張り付いていた。鬼のような凄まじい形相を浮かべながら車内を覗き込み、「オギャー‼オギャー‼」と、赤ん坊のような泣き声を上げていた。僕は恐怖で声が出ず、大量の冷や汗を搔きながらガタガタと身を震わせた。僕はその場から逃げ出そうと思ったが、身体が椅子に釘付けにされたかのようで動く事が出来ない。僕は金縛りのような状態に陥っていたのだ。 『こ、これは夢に違いない!夢なら早く醒めろ!醒めてくれ‼』僕は心の中で必死で叫んだ。『頼む!醒めろ!醒めるんだ‼』恐ろしい悪夢の世界から脱しようと、何度も何度も何度も何度も叫んだ。  その時だった。 「お、俺が悪かった!許してくれぇ‼」  向かい側に座っていた男性が、青ざめた顔でドアの窓に向かって叫んでいる。どうやら男性にも血まみれの女が見えているようだ。女は男性をギッと睨みつけ、赤ん坊のような泣き声を一段と張り上げた。 「オギャー‼オギャー‼オギャー‼オギャー‼…」  男性は狂ったように悲鳴を上げ、後ろの車両へと逃げ出した。女もその後を追って、虫のように電車の窓を這って行った。  電車は駅に到着した。男性が慌てて外に飛び出し、ホームの階段を走って降りていく姿が見えた。そして、それを追いかける女の影も…。  それから数日後、妊婦の愛人を人身事故に見せかけ殺害した男が逮捕された…というニュースが報道された。僕はそれを見て、あの深夜に体験した出来事の全てを悟った…。
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