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美しさの秘訣は・・・。
美容家電の新CMに抜擢された女優の水澄加奈の、商品のPRイベントの様子が、朝の情報番組に映し出されていた。周囲を囲むインタビュアーの一人から、「水澄さんの美しさの秘訣とは?」と質問されると、彼女は二重瞼の大きな瞳を柔らかに細めて、可愛らしくニコリと微笑んだ。
「毎朝の洗顔をかかさずに、丁寧にやることです」
その答えに周りの人達からはなるほどと、納得したような空気が醸し出される。
そんなリビングのテレビに映った映像を横目に、私は洗面所へと向かった。
鏡に向かった私はニキビ跡が目立つ肌と対峙し、一重の瞼をじっと眺めながら、邪魔な髪の毛を頭の上でまとめ上げた。垂れてくる前髪はピンで留める。水道の蛇口を捻り、水で顔を濡らした後、すぐ側に用意してあった洗顔料を手にとった。
黒色のジェルタイプの洗顔料は、昔からの私のお気に入りだ。もうかれこれ十年以上は愛用している。
大きめのチューブを握り込み、なみなみとジェルを出す。黒色の固まりはこんもりとした山となって、私の手のひらの上にのった。
私は慣れた手つきでそれを顔面に置いていく。顔全体を覆い隠すように、まんべんなく。
目を瞑っているので確かめることはできないが、現在洗面所の鏡には、顔がジェルに覆い尽くされせいで、黒いのっぺらぼうに近くなった私の姿が映っていることだろう。
鼻の穴と口の部分は開いているにしろ、想像するとなかなかに不気味である。
この洗顔料のいいところは、気になる汚れを全て洗い流してくれるところだ。メイクのノリも格段に上がり、肌質が別人のように滑らかになる。
(さてと、もういいかしら)
私は長年の感覚からそろそろだと判断し、ジェルを優しくすすぎ落としていった。
丁寧に、丁寧に。
そうして全てのジェルを落としきり、ふわりとした清潔なタオルで顔を拭う。
鏡を見るとそこには大きな二重瞼の瞳と整った鼻筋。陶器のように透き通った肌が印象的な美人女優、水澄加奈というもう一人の私がいた。
「さあ、早く着替えなきゃ」
もうすぐマネージャーが迎えに来る。今日は朝からドラマの撮影が入っているのだ。
この顔は寝るまでずっと保たれる。
私がこの黒い洗顔料に出会ったのは、本当に偶然の幸運だった。
多少どころか、かなり値がはる代物だが、これがなかったら私はきっと、この世界に入ることすら叶わなかっただろう。
美しさの秘訣は・・・・・・。
そんなの絶対に、教えられるわけないだろ。
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