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先週、とある有名観光地に行き、股覗きという体験をした。
上体を折り、開いた自分の足の間から向こうを覗く。するとそこには、いつも見えているのとは逆さまの景色が広がるんだ。
その感覚が新鮮で、仕事の昼休憩の時、オフィスビルの屋上に上がり、自分が暮らす町を股覗きの状態で見てみた。
そこに広がるのは逆さまの世界ではなかった。
建物が全て壊れ、あちこちに動かない人々が転がる、地獄のような世界。
すぐに体を起こして周囲を見回したが、そこには普通に地元の町並みが広がるばかりで、何の異常も見受けられなかった。
さっきのあれは何だったのだろう。
気になって、もう一度股覗きをしてみたが、今度は普通に逆さの景色が見えるばかりで、先刻の地獄絵図を見ることはもうなかった。
…そんな体験を忘れた頃、その時の地獄絵図は俺の視界に広がることになった。
たまたま出張で家を留守にしていた時に、地元で起こった大規模地震。
出張先で目にしたニュースの現地映像は、あの日、俺が股の間から覗いた光景そのものだった。
ニュースを見ながらすぐさま家に電話をしたが出ない。地元に住む友人達のところも同様だ。
たまたま遠方にいた俺は無事だが、家族や友人達はどうなっているのだろう。
あの日見た、崩壊した建物の傍らなどに転がる人々。俺の知る人達がああなっていないことを、今は切に願うばかりだ。
股覗き…完
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