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会場の端の方へ向かい、そのまま誰もいないバルコニーへ出る。  頬の熱に、澄んだ空気が心地いい。回復薬を作ってから、怒涛のように時間が流れていったから、月を見上げるなんて久しぶり。静かな月明かりに照らされる。 「お義姉様」  会場に戻ろうと思った時、後ろから声をかけられて振り返った。イザベラと元婚約者のハウエル様が入り口を塞ぐように立っている。 「ねえ、どうしてお義姉様が、聖女なんて呼ばれているの? 聖女はわたくしのはずでしょう? 聖女の石だかなんだか知らないけど、魔物が減ってしまったせいで回復薬が売れなくなって困っているの。お父様ったら、ドレスを買うのを控えろなんて言うのよ。酷いと思わない?」  口許を歪ませたイザベラに睨まれて、身体がびくっと跳ねた。そんな私をピンク色の瞳が冷ややかに見つめる。 「はあ。お義姉様の代わりに雇った魔法薬師が使えなくて、今まで通り、わたくしの魔力色に染めているのに回復薬の効果が落ちたと言われているのよ。お義姉様のいた頃のほうがマシだって気づいたのよ」  笑みを浮かべたイザベラに嫌な予感が止まらない。 「ハウエル様も今のお義姉様ならお相手してもいいと言ってくださってるの」 「ああ。今のシャーロットなら相手してやってもいい」  ハウエル様の視線がねっとりと絡みつく。今日はアーサー様の瞳の色と同じ赤色のプリンセスラインのドレスを着ている。艶やかな生地で、裾に美しい宝石が縫いつけてある。  アーサー様に見てもらうのは嬉しいのに、ハウエル様に見られるのは気持ちが悪くて仕方ない。首を横にぶんぶんと振る。 「マローラ子爵家に戻って、回復薬を作って頂戴──ああ、もちろん、わたくしが聖女でなくなってしまうから、あの変な石は作っては駄目よ。今すぐに戻ってくれるなら、ハウエル様を()()()()貸してあげてもいいわ」  聞いた瞬間、怒りを感じた。
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