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◇
私と小さな鞄ひとつを乗せた馬車は、一週間ほどかけて辺境に辿り着いた。
「よく来てくれた! 俺は、アーサー・ハルジオンだ」
「シャーロット・マローラです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
出迎えてくれたハルジオン辺境伯は、燃えるような赤髪に、意志の強そうな赤い瞳。騎士服を着ていても、鍛えられているのがわかる逞しい大きな身体をしている。穏やかな声音で話すハルジオン辺境伯は、噂で聞いていたより優しそうな人で安心した。
ごほん、と咳払いの音がする。
視線を向けると、青い髪をひとつにくくり、銀の細いフレーム眼鏡をかけた細身の男性に、ひんやりする紺色の瞳を向けられていた。
「辺境騎士団の副団長レオンです。催促するようで申し訳ないのですが、聖女の回復薬はどこにあるのでしょうか?」
「え……?」
冷ややかな言葉に心臓が跳ねる。
戸惑う私にレオン様から聖女の回復薬を持参する約束だったことを伝えられて、顔が真っ青になった。私の荷物は小さな鞄だけで、『聖女の回復薬』はひとつも持ってきていない。イザベラは、私がハルジオン辺境伯の機嫌を損ねて、追い出されることを期待している。
「あ、あの、申し訳ありません。聖女の回復薬は、あ、ありません……」
「はあ、聖女の回復薬を大量に持参するという話は怪しいと思っていたが、まさか一本もないとはな……! 随分と馬鹿にしてくれる」
「っ! 申し訳ありません!」
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