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「そうですよ。昨日も朝一で先生にお会いして、検査の申し送りをしました」
「なんで」
高輪叶人は信じられないとでもいうように目を丸くする。
「先生がとても心配でした。先生になにかあったらと思うといても経ってもいられませんでした。それなら一層のこと、私で満足してもらえないかと思って」
高輪叶人の瞳に困惑があふれる。全く想定していなかったのだろう。
「三蓼技師は……俺が好きなの?」
「厳密に言えば、好きとは少し違います。けれども高輪先生にとても執着していることは自覚しています。危ない目に合ってほしくありません」
「執着? ……困ったな。誰にも知られたくなかった」
その様子は確かにとても狼狽えて見える。きっと想像もしていなかったんだろう。
「知っています。俺は病院を辞めます。誰にも話しません。代わりに夜にあってもらえませんか」
「それは……駄目だ」
高輪叶人の瞳は更に狼狽え首を左右にふる。
聞くまでもない。夜に俺と会うこと自体が高輪叶人の中で問題になっている。本末転倒だ。これを話せば全てが終わる。けれどもどうせ駄目なんだ。自暴自棄になりかけのまま、頭の何処かは冷静だった。俺がしたいこと。俺の望みはもはや、高輪叶人の意志に従うことだけだ。
「探しているのは先生を刺した人でしょう? 先生を刺したのは私です。だから探す必要はありません」
「……何、を?」
高輪叶人の声は困惑に揺れた。
「それ、俺を心配して言ってる? そんな変な気を回さなくとも」
その背中の赤い筋にそっと触れると高輪叶人はびくりと揺れる。俺がこの美しい体につけた凹凸。そしてその背中を抱きしめる。
「俺は先生の背中にナイフを刺して、すぐに抜きました。そうすれば失血死すると思ったからです。そしてこうやってずっと抱きしめていました。十分ほどでしょうか。先生からどんどん血が流れて冷たくなって。でも人が来た足音がして、先生をその場に置いて逃げました。その時着ていたジャケットは俺の家にあります。完全な証拠です」
高輪叶人はがくがくと震えだす。俺はこの人を殺したと思った。でも不幸なことにナイフは重要な血管を外していたようだ。心臓に到達するように歯を伏せて肋骨の隙間を狙ったけれど、思い返せば肩甲骨に当たったんだろう。それほど深く刺せなかったのかもしれない。高輪叶人が回復したと聞いた時にそう思った。
告白して少しだけ心が軽くなった。けれどもそれと同じかそれ以上に、ふれる傷跡に改めて罪悪感が押し寄せた。俺が高輪叶人を刺したんだ。
びくびくと体を揺らしながら高輪叶人が振り返る。その目はこれ以上はないほどに見開かれていた。
「だから全て私のせいです。自首しようと思いますが、先生が望まれるなら命を絶ちます」
「それじゃ三蓼技師が本当に神様?」
神様?
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