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朝の睦言
簡単にシャワーを浴びてベッドに戻れば、高輪叶人はくたりと横になっていたままだった。せめてと思って湿らせたタオルで体を拭いていると薄っすらと目が開き、ありがとう、と小さく呟いた。
右腕を下にして体を丸める高輪叶人はとても小さく見えた。プラチナのウィッグも首のところでくしゃりと絡まっている。俺のせいじゃないと言っていた。けれど、明確に俺のせいだ。それ以外無い。
隣で寝てもいいんだろうか。俺にそんな資格はあるんだろうか。そんな自問自答を繰り返すうち、再び高輪叶人の目が開く。
「寝ないの?」
「寝るよ」
「ねぇ、あんたさ。俺はおかしいと思う? 俺は気持ち悪い?」
「気持ち悪くないよ」
「じゃぁ」
高輪叶人の左手は目の前のベッドをとんとんと叩く。高輪叶人に布団を掛けて、その中に潜り込む。青灰色を帯びた瞳がじっと俺を見つめている。傷に触れたことを謝ったほうがいいんだろうか。きっと違う。俺のせいではないというあの言葉に反することはできない。それに謝るなら全てを話さないといけないだろう。何故俺がその傷を知っているのかも。
「俺さ、人が今どんな顔をしてるのかもよくわかんないんだ。でもきっとあんたは俺を心配してるんだろ?」
「そうだな」
「本当にあんたのせいじゃないから、気に病まないで」
その目はまっすぐに俺を見つめている気がした。俺を?
高輪叶人が俺に話しかけている。そのことに妙な感動を覚えた。それを喜ぶ自分自身に嫌悪感も覚えた。
「ほんとに悪かったよ。よかったら一緒に寝てほしい」
その言葉に少しだけ救われた。ここにいてもいいと言ってもらえた。その透き通った瞳にはきっと嘘はない。俺が悪いと思っていないのも本当だろう。その分、罪悪感はますます深まる。俺は嘘だらけだ。返事をしなくては。
「もちろん」
高輪叶人はわずかに微笑んだ、気がした。
目を閉じて、次に目を開けたときには夜が明けていた。やけに明るい。慌てて時計を見れば六時二八分で、ほっと胸をなでおろす。三十分ほどは余裕がある。ふとベッドサイドに目を向ければ腰掛けて煙草を吸う高輪叶人の背中が目に入り、振り向いて目があった。そういえば煙草じゃなくてハーブなんだっけ。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「あのさ、ちょっと話があるんだ」
「話?」
その声は思いの外、真剣だった。
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