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「うん。誤解しないでほしいんだけど。これは昨日のことと全く関係ない。昨日会う前から決めてたこと。俺ら、もう会うのやめよう」
意味がすぐに飲み込めなかった。昨日のこと、つまり傷に触れたことが理由ではない。じゃぁ、何故。いや。
「せめて理由を教えて欲しい」
「あんたは全然悪くないんだ。その、なんだ。あんたが特別になりそうで」
「特別に?」
俺が高輪叶人の特別に? その意味もやはり、わからなかった。
それこそありえない。そもそも顔が認識できないはずだ。あれ? でも認識できないのは顔だけで、俺という個性を感じられないわけではない。いや、それでもそもそも、高輪叶人は人を区別していない。奇妙な違和感を感じる。
「どういう意味? もしかして好きとか?」
そんなはずはない。高輪叶人はきっと誰かを好きになったりしない。なんとなくそう思っていた。
「好きっていうのとは少し違うかもしれないな。あんたといると安心する。とても優しくしてくれるから」
その言葉には困惑が勝つ。
「優しくしてるつもりは」
「全部俺に合わせてくれてるだろう?」
合わせた。そういわれればそうかもしれない。けれどもそれは、俺にとって当然のことだった。俺にとって大切なのは高輪叶人なんだから。
「それは会わない理由にならないんじゃ?」
「ブレストであんたから声がかからないかって少し期待している自分がいる。いなくて、他の男で済まそうと思うと少し残念な気分になる」
それは単に、慣れた相手の方が安心できるというだけだろう。それ以外の意味はない。けれども嫌われているようでないと思ってホッとした。
「だからもうブレストには行かない」
「嫌なら声をかけないよ」
「一番の理由は会いたい人がいるんだ。ただでさえ覚えてられないからさ、それを忘れたら困るんだ」
その言葉に心臓がどくりと泡立つ。高輪叶人が会いたいというのなら、それは最初に会った時に探していた人間だろう。
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