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「俺に似てるって言ってた人?」
「そう」
「どこが似てるの?」
「わかんない。でもその人に似たあんたを万一好きになっちゃ駄目だと思ったから。そうするときっと、探せなくなる。そんな気がする」
好きになっちゃ駄目。
昨日の様子が思い浮かぶ。傷に触れて高輪叶人は明らかにおかしくなった。高輪叶人にとって自分を刺した人間という存在は極めて重要なのだろう。当然だ。自分を殺しかけた相手だ。心が冷えていく。
「その人に会ってどうするの?」
「わからない。俺はどうするべきなのか。でも会わないともっとわからない。本当は会えるのかもわからないけれど」
「わからないなら忘れちゃ駄目なの?」
「ああ。それは絶対駄目だ。俺にとって何よりも重要なことだから。あんたはとてもいい人だよ。だから、あんたとはもう会えない。ブレストにはもう行かない」
そう告げる高輪叶人の表情は取り付く島もないほどきっぱりしていて、そして少し寂しそうだった。ああ、これで最後だ。高輪叶人に会えなくなる。それは俺には耐え難い。けれども高輪叶人の言うことに反することはもっと耐え難い。俺にとって高輪叶人は絶対だった。
そうすると高輪叶人の言葉に従い従いその喪失を恐れながら日々過ごすか、それとも一層のこと本当のことを全て話してしまうかだ。
それほど迷いはしなかった。それこそ、高輪叶人の知りたいことだろう。いずれにしても失われてしまうなら、少しでも高輪叶人の望みに近づくほうがよい。それは俺にとって自明の理だ。
「私も隠していたことがあります、高輪先生」
「……え? 今なんて」
「私は先生をブレストで会うより前から知っています。私は三蓼です」
「……三蓼、さん?」
何かを思い出そうとするような声。
「放射線技師の三蓼です」
「え」
そのぽかんとした顔に、名札がついていなければ本当に俺を認識していないんだなと感じる。でもそれは俺にとって想定の内だ。ぱちぱちと長いまつ毛が触れ合う。
「本当に、三蓼技師?」
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