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『まだ解らぬようだな』  僕を照らしていた光が徐々に弱まる。僕はそろりと空を見上げた。  空の向こうから闇が迫り、太陽の陽射しを遮り青空を侵食していく。  黒雲? いや……違う。  あれは、カラスだ。カラスの大群だ。  空を覆う程のとてつもない数。この星にこんなにもいるわけがない。何故、こんなにもカラスが--  最悪の予感が、脳裏に過る。 『勘づいたようだな。そうだ。このカラス共も、元は人間。今やこの星に人類はおらぬ。人類はもう、絶滅したのだ』  僕や村の住人だけじゃなかった。世界中の人間が、カラスになっていたのか……。  この中のどこかに長慈もいるはずだが、最早どこにいるのか見当もつかない。でも呼べはきっと来るはずだ。 「長慈! どこだ! こっちに来い!」 『無駄だ。この元人間どもは自我を失い、カラスとして生きる道を選んだ。最も人の意識があった時点で既にカラスとなんら変わらぬ振る舞いはしていたがな。食糧を食い尽くし、動物を無差別に襲い、数多の種を絶滅させ、尚もその死肉を喰らい、所構わず糞尿を垂れ流し地上を白く汚した。やがて人の言葉も記憶も忘れ、身も心もカラスになったわけだ』  なんという、惨いことを……。  きっと家屋に閉じ込められ死んだ者もいただろう。運良く外に出れても今度は食糧の奪い合い。流通、製造、生産、経済、文化、情報、政治、防衛、医療、全ての機能が失われた社会では統率など取れるわけもなく食糧などあっという間に尽きる。それでも本能のまま行動し、自ら破滅してしまったんだ。  それもまた、人間らしいと言えば人間らしいのか。 『これで解ったろう。この世界は既に終わっている。人類も動植物も絶え、滅亡したのだ』  ただひとりの、神の使いを決めるだけで、どれほどの犠牲を払ったんだ。  馬鹿げている。本当に馬鹿げている。 「二つ、訊きたい。どうしてカラスなんだ」 『この星に措けるカラスという生物。ある者は神聖視し、ある者は不吉の象徴と意味嫌う。神にも悪魔にもなりうる中立的存在だからこそ選別にうってつけであった』 「もし、最後に残った僕も人の心を無くしカラスになっていたらどうした」 『その時は別の星で選別するまでだ』  随分と勝手だな。なら、僕も勝手にさせて貰う。
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