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『これで満足か? さあ、神の元へ』
「言っただろ。僕はここで生きる。仲間達を置いて自分だけ別の世界に行くなどできない」
『仲間ではない。ただのカラスだ』
「生きている以上、同じ星で共存する仲間だ。それにカラスは賢い生物だ。もしかしたら僕の生き方を見て自我を取り戻してくれるかもしれなーー」
次の瞬間、空が閃光を発した。
間髪入れずけたたましい轟音が鳴り響き、激しい雷が次々とカラス達を襲う。
ボトボトと音を立て、黒い雨が地上に降り注ぐ。
音と光に怯んでいる間に、大地は黒一色で埋め尽くされた。
みんな、死んだのか……? 長慈も、村の人々も……。
『これでお前は完全に独り。もはやここにいる意味はない』
こんなのもう神ではない。悪魔の所業だ。
『さあ、神の元に来い』
「いいや、尚更ここを離れるわけにいかなくなった」
『……何?』
「彼らを埋葬するよ。ひとりひとりに墓を立て、供養する」
『莫迦な!? 数は減ったと言えど七十億以上はいるのだぞ? どうしてそこまでする!』
「そりゃ僕は人間だから。死を悼むのは当然だよ」
神の奴が返答する前に、僕はこれでもかと畳み掛ける。
「そもそもね、全人類をカラスにして皆殺しにするような悪魔にホイホイ従うわけないんだよ。神だかなんだか知らないけど、人の人生と命を弄ぶ権利は誰にも無い。もちろん僕もあんたに恨みはあれど復讐する気もない。そろそろ帰ってくれないか」
永い永い沈黙。その間、僕は目を反らすことなく空を睨み続ける。
『……ならば好きにするがよい。だが忘れるな。お前が拒んだことにより、別の星の人間が犠牲になるのだということを』
それ以降、声は聞こえなくなった。
僕は神でも英雄でもカラスでもない。ただの平介という人間だ。
「……さて、やりますか」
僕は七十億の子の亡骸を前に、小さく泣いた。
完
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