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 僕と長慈はとにかく冬に備え、食糧を備蓄することにした。 「野菜を作るのか? この体でか? さすがに冬になっちまうよ」 「ビニールハウスや鉢で育てれば天候や気温の影響も受けないよ」  それでも小規模な範囲でしか栽培できない。鉤爪で土を耕し、種を嘴に咥え植えていく。水もペリカンのように嘴に蓄え少しずつ与える。地道な作業だが、これも生きるため。  作物が育つまでは山に入り食べられる野草や木の実、キノコを探した。知識はカラスになっても健在なので、毒があるかどうかはすぐに見抜ける。更にカラスは人よりも視力が良いらしく、遠くからでも見付けることができた。ちなみに木の上にある木の実は長慈に飛んで採って貰った。僕としてはあまり飛んで欲しくないんだけど。  近くに小川も流れているので魚も狙う。しかし当然竿は使えない。そこで地道に石を運んで囲いを作り、そこに入り込んだ魚を獲った。もちろん全部はそのまま食べずに嘴でさばいて乾燥させ干物にする。これで保存食はバッチリ。  魚が獲れない日は虫を探して喰らった。この村に来た当初は抵抗感があったが、今ではすっかり好物だ。貴重なタンパク源で栄養価も高い。が、さすがに人間が口にする範疇の虫だけを取った。  朝日と共に起床し、夕日が沈むと同時に就寝。  食事は朝昼晩三食取り、三日に一回は風呂桶に水を張り体を洗う。慣用句通りカラスの行水だ。  排泄も初めは厠でしていたが、畑に直接した方が肥料を運ぶ手間が省けるのでなるべくそっちにした。人間の姿では絶対に人に見られたくない行為だ。  今日も夕陽を背景にカラスが飛んでいく。目撃する度に村の者が帰ってきたと思ってしまうが、どうやらみんな野生のカラスのようだ。  僕もあのカラスのように飛ぼうと思えば飛べるだろう。だが飛んでしまえば僕は人間でなくなる。そんな気がして飛ぶ気は一切起きなかった。  今頃みんな街で食べ物を探しているのだろうか。住人に迷惑をかけてなければいいが。あまり度が過ぎると行政が動いてしまうかもしれない。  いつでもみんなが戻って来てもいいように多めに食糧を蓄えておこう。
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