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 気温が下がり、ちらほらと雪も降り始め、冬が訪れる。  脚でマッチを擦るのにも大分慣れた。火を使う鳥獣なんて世界中探しても僕だけだろう。いや、昔見た本で火を狩りに利用する鳥がいたって書いていたのを読んだような。暖かい火鉢を前にそんなことをぼんやり考えていると、 「なあ」  何気なく長慈が嘴を開いた。 「俺達、いつまでこのままなんだ?」 「……さあ」 「このままカラスとして生きて、カラスとして死ぬのか?」  相槌も打てなければ、返す言葉も見つからない。 「俺は嫌だ! もう沢山だ! どうして俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ! 二十まで村にいなければならない村の掟を律儀に守り続けたのに、上京もできずやりたいこともできず夢も叶えられず彼女もできずこんな山奥のド田舎の村で終わるのは御免だ!」  いつも以上に声を荒げている。ここは話を振って宥めるしかない。 「長慈の夢はなんだ?」 「音楽だよ。同じ夢を持つ仲間とバンド組んで、デビューするのが俺の夢だった。でもこの姿じゃギターは疎かドラムすら叩けねえ。詰んでるんだよ。もう……」 「諦めるな。本当に音楽が好きなら形に拘る必要はない。この姿でも脚でピアノは弾ける。マラカスも掴めるし、カスタネットだって」  「ケ!」と悪態をつき、長慈は襖に開けた穴に飛び込んだ。どうやら機嫌を損ねたらしい。  僕は、僕だけは絶対に折れない。  どんなに辛く、悲しいことがあっても人間らしく生きていくことは、亡き妻との約束であり、僕の信念だから。  例えカラスになっても人間の心を失わない。人の尊厳だけは失いたくない。  だから僕はこれからも地に脚をつけて生きていく。
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