目を開けたけれど

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目を開けたけれど

 俺は何か悪い夢を見て、目を覚ました。  体中嫌な汗をかいている。  だが、目を開けたはずなのに、真っ暗だ。  俺の目に映るのは黒い闇の色だけだった。  なんでだ?そもそもこの寝心地の悪さは何だ。  俺のベッドではない。  俺の部屋だったら、元々朝日で起きる習慣の為カーテンさえ引いていない。  夜眠る時に電気を消すのと同時にカーテンを開けて眠るのだ。  自分の目が見えなくなったのかとも思い、目を触ってみる。  手が何か硬いものにぶつかって顔の前に来なかった。  途端に恐ろしい思いが俺の頭に浮かんだ。    まさか。この狭い空間は・・・棺?  俺の田舎には土葬が許可されている墓苑があり、俺の家は代々そこの墓苑での土葬で見送られている。  俺は何か病気だっただろうか?  それとも事故に遭って死亡と診断されたのだろうか? 『おぉ~い。俺は生きているんだ。』  叫んだつもりだが、自分の声も聞こえない。  しん。とした静寂だけが俺を包んでいる。  死亡と診断されてから生きかえる例はゼロではない。  俺はだんだんと生きていた頃の事を思い出した。  俺は昔から気が短く、すぐに人を怒鳴りつけた。  妻にも、子供にも同じ対応をした。  そして、いつか喧嘩の時に言ったことを思い出した。 「俺が死んだら24時間も待たずに埋葬しろ。死人は死人だ。生き返らん。お前らもその方がすっきりするだろう。」  そういえば、友人の医者にも同じことを言った覚えがある。  その友人の医者とは同級生で学校ではいつも何かしら気に入らなくて怒鳴りつけていた。 『あぁ、あいつら。俺の言ったことを実行したんだな。法律を守れよな。』  色々と考えている間も目をあけているつもりだが、漆黒の闇が広がるばかりだった。 「あなた。朝よ。いい加減起きてくださいな。」  なんと、妻の声が聞こえるではないか。  『ギギ~ィ』  妻が棺の蓋を開けた。  薄暗い間接照明だけがつけられた部屋の真ん中の棺で俺は起き上がった。 「あれ?」  俺は全てを思い出した。  俺は吸血鬼になったんだった。  妻をひどくののしった時に、妻に噛みつかれて。  窓を開けると、新月なのか真暗な真っ黒な空が広がっていた。 「なんだか、人間の時の夢を見た。」 「あら、まだ覚えているの?もう100年も吸血鬼をやっているのに。」 「明るい日差しの下で起きていた時の夢を見たんだ。」 「まぁ、いいけど。そんなことがあったら今度こそ本当に塵になって死ねるわよ。なんだったら、朝起してあげましょうか?部屋中のカーテンを開けてね。」  散々俺に怒鳴りつけられていた妻はもういない。実は俺よりも長く生きている吸血鬼なのだから。  妻は昼間行動してもある程度の耐性を持つほどの1000年は生きている強い吸血鬼なのだ。  あぁ、漆黒の闇に包まれて、俺は今日も俺に狩れるだけの小さな獲物を探しに外に出る。まだ人間を獲物にするほどには吸血鬼としては大人ではないのだ。  間違っても朝までには帰宅しないと塵になってしまうから。  黒いマントを着て、暗闇に紛れて・・・  今日はネズミを捕まえたぜ。 【了】    
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