第3章 夏の冒険、外の世界へ 第30話 チーの眠り

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第3章 夏の冒険、外の世界へ 第30話 チーの眠り

怒りで興奮し寝込んだチー。 深い眠りは、みんなの心配をよそに、静かに、少し微笑んでいるようにも見えた。 ここからは俺メルーと、飛びついて来ては、俺にぎゅっと抱きついて来ていた、大事な末っ子の物語のつづきだ。 この村が変わるきっかけとなった、アイツのレシピ制作を俺が任されることになる。 「できるだけ絵を多く入れてくれないか?」 長老は、文字の読めない人たちもわかるように絵を入れてほしいといったんだ。 俺はいま頑張ってそれを書いている。 「パスタ?なんだよそれ?」 チーは、皿と毛糸を持ってきて何かをし始めた。 皿の上に白い毛糸を盛りつけ、その上に赤い布を切り刻んだものを乗せ、フォークを持ってきてさしてくるくる巻き付けた。 「ああ、チーネか」 「チー?ね?」 チーの言いたいことは分かった、よく食べるものだ。でもチーは、名前が違うと言い出した。 俺のペンを奪い取り書き出した絵。 ただの線? 「こりゃみんにゃ、ぱしゅた!」 は? チーは歌いながら教えてくれた。 親指を指して。 ♪一番大きなお兄ちゃんは歯ごたえばっちり、リングイネ。 人差し指。 二番目はみんなの愛され役、長い長―い、スパゲッテー! 中指。 三番目は平麺たれったったたりあ、タリアッテレ。 薬指。 四番目にひかえし、おしゃまのお姉ちゃん、ひらひらドレスのファルファッレ。 小指。 五番目ひかえしちび助は、シェルにペンネ、マカロニ、だい!みんな、大好き、パスタの五兄弟! ふんふんと思い出しながら鼻歌を歌う。 そういえばパスタマシンに驚いていたな、種類もたくさん増えたし、食べ方もいろいろだ。 食べられるというと植物もそうだ。 秋にとれるもの多さにびっくりしたし。冬も少しだけど収穫できるものがあることにもっと驚いた。春はまだまだあると聞いていたのに中途半端だけど、これはまだ手を付けていない、こっちはゆっくりでいいと言われているからだ。 長老の隣に置いた大きな机といす。大きな椅子の背もたれに小さな背を押し付けた主のいない席は何だかさみしそう。兄ちゃんは奥で仕事をしているのが見え、たまに俺と目が合うとチーのように、親指を上げていた。 俺は背伸びをして窓の外を見た。 「チー、もう春が終わるぞ」 みんながその声に窓の方を見た。 季節は、春から夏へ向かっていた。 俺たちはチーが眠っても相変わらず忙しかった。 山菜やチーが残してくれたもの、日記を頼りに野山に行き、探し出すのに苦労したんだ。 「これかな?」 土の中のものが、えぐみがなくておいしいと聞いていた、今日はたけのこを掘るのだ。 一日でぐんと伸びるたけのこは、あちこちに物を置くなとチーに言われていた。 どうしてかと聞いたら、何もないところに物をおくと下からたけのこがでて、あっという間に手がとどかない高いところへ持っていってしまうといわれていた。それなのにやらかした。 水を飲んだ後、ちょっとのつもりで置いた水筒は、あっという間に手の届かないところへ行ってしまった、本当に、ちょっと置いただけなんだ。 父ちゃんたちがどこにあるかわからないタケノコを見つけ、調べるためにわらを敷いたんだ、何もない広場のようなところだったのに、本当に竹がニョキニョキ生えてびっくりしたんだ。 たけのこを大量に取ってきて調理。 しゃくしゃくした歯ごたえ、ほこほことした柔らかい部分がごはんとあって、おいしいご飯になった。 捨てていた糠と呼ばれる粉はいろんなことに使われている、ちょっと苦手なのはぬか漬け、食べるのはいいけど、泥みたいな中に手を突っ込んでかき混ぜるのがどうも。 でも、母ちゃんやクエルは、肌がきれいになったって、顔にまでつけているけど、いいのかねえ? 今年は、米もいっぱい作るんだって。 チーが好きな丸い米を特に多く作るんだ。 まだまだやることはおおいけど畑仕事が始まると大勢の人が来る。去年は、食べる物がないからと、仕事をしに来ても払える賃金さえなかった。でも今年はお金の代わりに食べ物をもらえる喜びで、人達から笑顔がこぼれていた。 長老の所へ来るのはいろんな人たち、中には畑を広げたいという人も来る。でもこれは、チーに止められていた。 それはまだチーが眠る前の事だった。 教会で豆腐ができ、それが食べられるようになると、貧しい人たちで働ける人たちが仕事を求め始めた。 長老や大人たちは毎晩遅くまで仕事をしていた。 税金が払えず家を明け渡してきた人たちには家に帰るようにしてもらったんだ。 結局、貧しいからと言ってもその家には新しい人も住むことなく、空き家になっているところがほとんどなのが分かったからだ。 チーは忙しいのはわかるけど、調査をしなきゃダメと長老を叱っていたんだよな。 ボブやギル、父ちゃんたちだけじゃどうにもならないから、貧しい人たちに、食べ物をやる代わりに働かないかとチーとジャルを連れ歩いたんだよな。 すると畑を広げなくても、もといた家の周りには小さな場所でも作れる野菜がある、そこから手を付けていけばいい、大きな畑は、又何か起きたとき大損害を起こしかねないからだ。 家に帰ることができれば、もともとあった土地を生かすことができ、無理な開墾をしなくて良くなる。 税金が払えない人は、畑を売った人もいる。それを買い戻すならいいが、土地を買って新しく畑を作るのは、土によくないんだそうだ。だからチーは止めた。 畑は使っていない時に肥料をいっぱい与え休ませるのがいいのだという。 チーは、長老に領地の中のひとだけでもどうにかしてほしいと頼んだんだよな。 開墾することで一番困るのは森がなくなること。冬、寒いこの辺は木がなければ困る。 木を切るのは簡単だけど、木がそこまで大きく成長するまでの年月を考えてほしいとチーはこれも止めたんだ。 ここは、カヌール領、ラシューノ村だというと、チーは領主の所なのに街じゃないのと聞いてきた。 街は教会を中心にした住宅地で、家の中に少しの畑くらいしかできないような所で、区切りはあるんだって話た。 街の名前は? それは長老の名前、ハンスだというと、そうなんだー、よかったー、とやけに嬉しそうだったのを覚えている。 街の周りには林や森、大きな池なんかがあって、それを境に、四つの村がかこっていると話した。 そして一番広いこの村のほとんどが麦の畑と牧草地でしめている。 長老の敷地を守るため、村の端には、管理をしている人たちが住んでいる。 仕事のない冬には、長老の家に集まり、いろんなことをする、秋の収穫は、みんなが手伝ってくれる。
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