第32話 目覚め

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第32話 目覚め

目がパチンと音を立て開いた。 暗い。 息苦しい。 息できない。 口元に手をもっていきたいけど腕が重い。なんとか手を動かした、口には何かが張り付いているみたい。 手首が動き、腕が少し動くと、何とか二の腕が動かせた、脇が持ち上がるとやっと腕が顔まで来た。 鼻もそれで蓋がしてあるみたいで、こすると、オブラートのようなものがはがれた。 大きく息を吸い込んだ。 いたっ。 口がふさがってる?痛いのは、唇が切れた?ゆっくり唾液で、唇に水分を送り、舌ではがした。息苦しい、鼻もこする。 そして、口が開いた。にちゃーっと言いながら。気持ち悪い。 やっと息を吸い込んではいた。 ふー。 もう一つ。スー、はー。 ふー・・・? 顔・・・体もかゆいな、お風呂。 目がなれた。 ここはどこだ? 天蓋つきのベッド。 窓はステンドグラスのようなガラス。 ・・・ああそうか。戻ってきたんだ……。 戻ってきた?…夢だったのかな? どっちが夢? 体を起こそうとした。 重い。 体がゆう事を・・・聞かない。んー、だめだ。 手をあげた。 な、なんだこれ? 日焼けした後のようにめくれ上がる皮膚。 かゆいのこれ? 布団をめくってみた。 げ、おむつ。 それよりこれ何? 布団の中は、粉のようなものでいっぱい。 あー、おしっこ、漏れそう! ベッドから足をおろそうとした。 パリパリ、バリバリ音をたてる体。 なんか体がふわふわ。 ん?ふわふわって、浮いてる? びっくりする、背中ではまるで肩甲骨がぐりぐり動いてみるみたいで。 顔をギギギと動かしてみた。 あー! やっぱり、何これ?蝙蝠?なんだか小さい羽がパタパタいってる。 もういい、このまま行こう。 だらんとしたからだ、飛んでいるが上下するから余計気持ち悪い。 ドアを開け、トイレへ。 座りたいのに、羽がゆうことを聞かない。あっちにふらふら、こっちにふらふら。壁に手を付いた、ドスン。 やっと座れた。 はー。 ばたばた走る音。 「チー!チー!どこ!」 なんだか懐かしい声だ。 ニーニ・・・。 「トイレ―」 お、声が出た。 バン!トイレのドアが開いた。 そこには今にも泣きだしそうな顔のジャル。 「今、トイレちゅう」 「わー、チー、チーが起きたー!」 え?なに?どうしたの? なんでもない。と言いながら下を見下ろし、大きな声で泣きだしボロボロ流れる涙をぬぐった。 帰ってきた。という実感がこみあげてきた。私ももらい泣き。 手を伸ばしてきたから手を伸ばした。 大きな声、抱き着いてワンワンと先に泣かれたんだー。 「ただいま、帰って来たよ、ただいま、ニーニ」 「おかえりー!」 一番に口にした水がおいしかった~。水が体の中を通って行くのがわかるくらいすっとしたよー。 しばらくして、羽がなくなった。 あれ? どうした? 羽が引っ込んだ。 それは魔法のせいだろうというパパさん。 魔法なんてあったっけ? 司教様が隠してくれたんだって、でも出たよ。 一時期だけだろう。 「ほら下向け、お湯かぶせるぞ」 ザパーン。 お風呂は、パパさんに入れてもらって、今話を聞いている。 産まれたばかりの時もそんなことがあった。 そういえばトイレにも行ったけど何にもでなかった。そうだろうという、最初はやわらかい物からなと言われた。しかたがないよね。 「髪伸びたな、切ろうな」 うん、みんな元気? 元気だ、まずは長老の所に行かないとな。 うん! 会う人、会う人が抱き着いてきます、もう、泣かれちゃって大変だったよ。 なんだか変な感じ。 何がだ? なんか目線がおかしい。 「そりゃ大きくなったからだろ、少しだけどな、さあお待ちかねだ」 大きくなったの? なっただろ?顔を上げ、見たパパさんが指さした。目の前にあったドアノブ、ああそうか、はいはいで、いつもドアの下をくぐっていたり、イスの上に載って開けたりしていたのが、顔を上げただけで、手が届いた。 ギリ、つま先立ちだけど、開けることができた。 足に力が入らないで、パパさんに抱っこされた、歯が生えたなって言われた、前歯が生えていた。 考えてみる、もしかして私、羽化したのかな? まるで蝶々みたいに”さなぎ”からかえったのかな? 部屋に入ると、みんなが泣きそうな顔で見ている。 「へへへ、ただいま」 わっと走り寄ってきた人たちに抱き着かれた。 そして。 「長老、ただいまもどりました」 抱き着いた。 「おかえり」 懐かしい匂い。抱きしめられたぬくもり。ああ、私の場所はここだと思ったのだった。 「チー!」 「チサ!」 クエルにママさん、女性陣。 「みんな、ただいま」 みんなに抱きつかれ、もみくちゃにされたのだった。 「はい、ミルクがゆ、卵入りだよ」 いただきます、あれ?味がついてる? 「おいしい」 「だろ?出汁入りだからね」 出汁、そっか。 美味しい、久しぶりの固形物はおなかを刺激したのだった。 次の日も体はすぐに動くはずもなく、まるで小鹿のようにプルプル震える足に、ニーニたちは大笑い。 だって、赤ちゃんだったのが急に幼稚園の年長さんぐらいだもん、そりゃ動けるわけないって。 おっきい兄ちゃんは、何か謝っていたけど、覚えてないからいいやって行ったら、抱き着いてきた。 それから、パン屋の夫婦に魚屋さん、ハルさんと八百屋と次から次ときて。 「チー!」 「チサ!」 黒いスモック姿の男の子二人が走ってきます。 「ピエール、ミハエル」 チー、チー、と抱き着いてきたのだった。 王様たちが来た日、何が起きたか覚えてる? ごめん、覚えてなくて。 そっか。二人はその日のことをかいつまんで話してくれた。 少しだけ涙をにじませながら。 王子はみんなに謝ったみたい。 そして、教会関係者の人たちにも頭を下げて、幼い子たちを保護してくれてありがとうって言ってくれたんだって。 そうか、それはよかった。 それから子供たちはどう? 寝たままの私に、病気じゃないかって、みんながお祈りしてくれたんだって。それと家の前で歌ってくれたんだって。 そっか、来てくれたんだ。 「だって、チーはあの子たちといろいろ約束してたんだろ?川にも海にも行こうって」 そうなんだ。 「約束破ると、舌を抜きに悪魔がくるって、もう、みんなそんなことさせないってすごかったんだからな」 ハハハ、そんなこと言ったんだ。 「まあ、ゆっくりして、それからまた遊ぼうぜ」 「とにかく養生してよ」 「うん」 リハビリは、少しずつ距離を伸ばし歩き始めた。残念ながら羽は出なかった。それとしっぽもいつに間にか消えた?わけないか、なんだか小さくなっちゃってた。
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