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遠足
いで~~~でっ…でっ…!
「はい、終わり~。お疲れ様」
「~っ…ありがとう…ございました」
「ごめんね~。涙目になっちゃった」
「大丈夫っす」
リハビリは、動かない肩を無理矢理動かすので痛い
痛い事をする為に行くのだと思うと、行くのも憂鬱になる
「莉玖君、もう少し家でも動かしていいよ?この動きと…これと…」
分かってる
分かってるけど
自ら痛い事をしたい訳がなく
ついついサボってしまう
「今は痛いから辛いと思うけど、若くてもね、ほんとに固まっちゃったら、可動域狭くなっちゃうからさ。運動するとかじゃなくても、仕事に支障が出るとか、咄嗟の時に動けないとか…」
咄嗟の時に…
咄嗟の…
「えっ?!それは困ります!」
「あ…うん。だから、家でも少しずつ動かそうね」
「分かりました」
咄嗟の時、動けないのはヤバい
沙弥姉の攻撃モロ食らう
それは仕事に支障レベルじゃねぇよ
「ただいま~」
「お帰り。リハビリお疲れ様」
「今日も痛かった~」
「ご褒美にマカロン食べる?」
「……えっ?また篠田さん来たの?!」
「来たの。もうね、マカロンはいいわよ。って言ったら、じゃあ何がいいですか?!って言うからね、じゃあマカロンでって言っておいたわ」
母さんが食いたいだけじゃねぇか!
俺は、もっと別のもんがいいぞ!
「篠田さん、色々大変だろうに、破産すんじゃね?」
「ねぇ~?」
ねぇ~?じゃねぇよ
ちゃんと断れよ
まあ、母さんの機嫌が良くなるのは
皆にとって幸せだけど
ソファーに座ってる凪彩の隣に座ると
「莉玖、結構動く様になった?」
「ん~っと、こっちが…ここまでっ…こっちは…ここまでっ…」
「ちょっとずつ動く様になってるね」
「もっと家でリハビリしろって」
「そうなんだ。自分で?」
「そ。痛ぇからサボってた」
「どうやるの?俺、手伝える?」
凪彩が、ウルウルした目で見上げてくる
か・わ・い・い
「いや、全然1人で出来るんだ」
「そう…傍に居て、応援するくらいなら出来るよ?飲み物持って来るとか」
これは…
自分も何かしてあげたい発作だ
「じゃさ、サボんない様に、毎日声掛けて、ちゃんと終わるまで監視してて」
「うん!分かった!」
何か手伝えたり
役に立つと
凪彩自身が救われるんだろな
「……5、6、7、8っ!終わり~っ!疲れた~」
「お疲れ様…大変だよね…痛そう」
あっ…
自分のせいで
が、凪彩の顔に浮かび上がって来た
「俺の…」
「せいじゃねぇぞ!」
「……でも」
「でもじゃねぇよ。見たか?篠田さんがマカロン持って来た日の、あの母さんの機嫌良さそうな顔。俺の心配よりマカロンだ」
「…どの位で治るかな…」
「ん~…早くても1ヶ月って言ってたけど、その前には、それなりに動かせる位になってんじゃね?」
「うん…」
しゅんだ
凪彩の頭の上に
しゅんとした垂れ耳が見える
「それよりさ、うちのクラスで、凪彩すげぇ人気なんだけど」
「…え?人気って?」
「凪彩が、心配してチョコチョコ来てくれるだろ?女子達と、男子まで、可愛い可愛い騒いでんだよ」
「莉玖の弟だからでしょ?」
「は?」
俺の弟だから?
どういう思考回路…
なるほど
あんだけ騒がれてんのに、全く気にしてない
それどころか
俺のせいだと思ってる
モテる理由は、そういうとこか
「なんとなく、凪彩がモテる理由が分かった」
「俺、別にモテないけど」
「モテる奴は、普通が分かんねぇんだろなぁ」
「?」
いや…
普通に可愛いか
こんな無口でクールなのに可愛いとか
可愛いでしかない
「もうちょっとで遠足だな?」
「うん。莉玖、歩けるかな」
「足はもう、全然大丈夫だ。荷物と炊事は皆に任せる」
「うん」
「愛葵は同じ班なのか?」
「うん。中川のすぐ後ろだから、愛葵とは大体なんでも一緒」
「そうか…」
喜ぶべきか
心配すべきか
「遠足で、他の人達とも仲良くなれるといいな」
「うん。でも、うちのクラス、凄く雰囲気がいい」
「…凪彩、うちの学校が、雰囲気いいんだ」
「……うん。そう思う」
「へへっ…来て良かったか?」
「良かった。ほんとに良かった」
「俺も良かった」
この歳になって
弟と遊んだり
同じ学校に通えるという夢が叶うなんて!
しかも
こんな可愛い弟
「神谷君、神谷君、弟君来てるよ?」
「んあ?」
「何、妄想してた?涎垂れてんぞ」
「あっ…蒼渚!垂れてねぇよ!凪彩~…!」
左手を振ると
パァッと笑顔になり
教室に入って来た
可愛い過ぎんか?
凪彩の傍らには
いつもの如く、愛葵がくっ付いてる
傍に居るじゃなくて
文字通り、ガッシリと凪彩の腕にくっ付いている
「凪彩君、今日も愛葵君と仲良しね~?」
「はい…こんちには」
「こんちには~♪︎」
凪彩が来ると、すぐに女子達が群がって来る
「莉玖、何か困ってない?」
「大丈夫だよ」
「凪彩、莉玖の頭ん中が、困ってる事になってんぞ」
「なってねぇわ!」
「愛葵~♪︎」
「継翔!」
「わぁ…♪︎」
そして、愛葵が来ると
どうやって嗅ぎ付けるのか中川がやって来る
中川兄弟のハグも恒例となっていて
何故だかそれも人気イベントだ
女子…分からん
分からんが、おそらく母さんも喜ぶに違いない
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