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「あぢぃ~…あぢぃ~…」
「先生まだ~?」
「もう少しだ!頑張れ!」
晴天の遠足日和
風…
もっと頑張って吹いてくれ
「莉玖、大丈夫か?」
「大丈夫」
「怪我してから、学校も行き帰り送ってもらってたろ。足、なまってんだろ」
「明日はヤバいかもな」
ようやく到着
さすがに疲れた
「莉玖は、そこに座ってろ。お~い、莉玖休ませとくからな」
「おお、神谷。帰りがあるからな。しっかり休んでろ」
「神谷君、お菓子食べてる?」
「おお。食う」
すげぇ
皆、チヤホヤしてくれる
「神谷、帰り大丈夫そうか?」
先生までやって来た
「多分」
「もし、ダメそうなら早めに言え。学校から、誰かに車で迎え来てもらう」
「………」
先生は、もう50歳位?
「なんだ?」
「いや…先生の歳になって遠足一緒に歩くの、大変だろなぁと思って」
「大変だ!先生だけ車で付いて来たい!」
「ですよね…」
「でもまあ…人によって思い出に残る出来事は違うからな」
「思い出に残る出来事?」
「高2の遠足が、凄く楽しかったって、覚えてる奴が居るかもしれない」
居るかもしれない…
居ないかもしれない…
けっこう…忘れるもん?
「皆…忘れてくもん?」
「忘れてくもん。神谷は、小学校とか中学校の遠足覚えてるか?」
「………そう言えば…覚えてるのもあるけど…あんま覚えてない」
「先生も、皆そうだ。その時は楽しいし、忘れる訳ないと思ってる。けど、簡単に忘れてく」
「じゃあ…先生の歳になったら、ほとんど覚えてないじゃん?」
「失礼な奴だな」
先生は、はっはっはっ…と笑いながら
「けど、覚えてる事もある。例えば、高3の文化祭の時、うちのクラスの売り上げ1位だったなとか、中学2年の時の宿泊研修、記録的な台風で延期になったなとか…印象的だったり、思い入れのある事は、けっこう覚えてるもんだ」
「…へぇ~?」
50歳で、中学2年だから
30年以上前…
「だからさ。この中の誰か1人くらいは、高2の遠足ん時暑かったな~とか。先生、炊事全然手伝わないで、神谷とばっか話してサボってたな~とか。つまみ食いばっかしてたな~とか。覚えてる奴居るかもしんないだろ?」
「…じゃあ…手伝って来なよ、先生」
「うっ…そこ?先生の有り難いお話は?」
「聞いた。俺はきっと覚えてるよ?高2ん時、交通事故に遭って、遠足ん時、先生と喋ってサボってたなぁって」
「……そうか~?皆そんな事言って、覚えてんのかな~?」
そっか
先生は、今までも、これからも沢山の生徒と遠足来る訳で
どれ位の生徒が
何を覚えてるのかは知らないもんな
「先生~!このゴミどうすればいいですか~?」
「ゴミ~?どれ~?…よっこら…しょっと」
毎年、沢山の生徒達と
高校生活の中の、たった1年を一緒に過ごすって、どんな感覚なんだろ
沢山の人と1年過ごして
1年ずつ過ごして
その人達が卒業してくの見送って
沢山の人達との
沢山の思い出
その中でも
先生が生徒だった頃の思い出が残ってるのは
凄い事だと思った
「神谷~…お~い…」
神谷?
「神谷く~ん。ご飯出来たよ~?」
ご飯!
ぱちっ
「おお~…飯に反応したのか、女子の声に反応したのか」
「食べよ食べよ~」
寝てた
こんな所で
疲れてんな俺…
腹いっぱい食って回復
皆で、ダムに登ったり
その辺散策したり
黙って座ってりゃいいのに
やっぱ楽しくて、じっとなんかしてられない
「お~い!記念写真撮るぞ~!集まれ~」
「神谷、真ん中行けよ」
「何でだよ?」
「神谷が真ん中居たら、思い出すだろ?そうだ!こん時、神谷怪我してた!って」
「お~…そうだな。ほら、目立つとこ行け」
「え~?」
皆に押されて真ん中へと行かされる
「俺、神谷のフルーチョ振って作ってやったんだからな?覚えとけよ~」
「お~」
「俺、神谷のスポドリのキャップ開けてやった~。覚えとけよ~」
「お~」
「俺、寝てる神谷起こしに行った~。覚えとけよ~」
「どんだけだよ?!」
覚えとく事多すぎて覚えてとけねぇよ!
「はいはい!皆、真っ直ぐ前向く!」
けど…
「じゃあ、笑って笑って~。はいチーズ」
パシャ
こんなに楽しんだから
少しくらい覚えてるといいな
帰りは地獄だった
足はすっかり疲れ
行きよりも暑くて
「皆~…水分ちゃんと摂れよ~…」
そう言ってる先生が
真っ先に倒れんじゃないかと思った
学校に到着し
凪彩と母さんの車を待つ為に、玄関に行くと
「莉玖、大丈夫だった?」
「死にそうだった」
「足痛くなった?」
「いや、普通に暑さと筋肉痛にやられてる。凪彩は大丈夫だったのか?」
「俺は…楽しかった」
「…そっか。良かったな」
いい笑顔
ほんと、学校楽しそう
母さんの車に乗ると、すぐに眠くなってきた
ウトウトしながら思い出す
凪彩が、来たばかりの頃
制服ボロボロにされて
泣いてたっけ
良かったな…
「凪彩…」
「何?」
「何…食ったの?」
「ジンギスカン」
ジンギスカン
凪彩が…
ジンギスカンだって
こっちの思い出…
いっぱいできるといいな
凪彩は…
いっぱい寂しい思いしてきたから
楽しい思い出いっぱい…
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