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思春期
「これならもう大丈夫でしょう。今日で受診終了でいいですよ」
「うぉっしゃ!自由!」
「莉玖!ちゃんと先生にお礼!」
「あ…ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる
「ほんとに、お世話になりました」
「ははっ…元気だね?診察には来なくていいけど、何でも今まで通り、完璧って訳じゃないから、あまり無理した動きは、まだ控えてもらいたいとこだけど…ま、痛いから分かるか」
「馬鹿な息子で、すいません」
「は?!」
馬鹿じゃねぇし!
「いやいや…ほんと頑張り屋さんですよ。莉玖君は、運ばれて来た時から、ほんと我慢強いって、看護師さん達も褒めてましたからね」
おお~…
ほら見ろ!
「ただ、馬鹿なだけなんです。自分の思い通りにならない足にイラついて、思いっきり床踏み込んで、ソファーに倒れ込んでましたから、この子」
「なっ…?!」
なんで今、それ言うんだよ!
「いや~…元気ですね?でも、リハビリも、痛いでしょうに、相当頑張ったと思いますよ?普通は、これだけ動くのに、もっとかかりますから」
見ろ見ろ!
凪彩と頑張った甲斐があったぜ
「先生、あまり褒めないで下さい。すぐ調子に乗るんで」
頑張ったんだから
少し位調子に乗らせろよ!
母さんを睨んでやると
「高校生なのに、親子仲がいいですね~。羨ましいです」
と、看護師さんに言われた
「…はっ?!全然っす」
何処が?!
何見てそう思ったの?
「馬鹿だけど、優しい子なんです」
んなっ?!
高校生の息子、こんなとこで、優しい子とか言うな!
超恥ずい!
何も言えずに、下を向いてると
「あら…莉玖君、照れちゃった?可愛いわね~?こんな息子が欲しいわ~」
「先生がこの位の時は、もっと親に冷たかったなぁ。いい子だなぁ…莉玖君」
すっげぇ皆に子供扱いされてる!
一刻も早く立ち去りたい!
ようやく、最後にもう一度挨拶をして、診察室を脱出出来た
辱しめを受けた
総攻撃だった
病院に居て話すのも恥ずかしくて
車に乗ったところで言ってやる
「母さん、皆の前で、自分の息子褒めんのとかやめろよな!」
「何怒ってんの?馬鹿だって言っても怒るくせに」
「当たり前だ!余計な事言わなくていいんだよ!」
「自分の息子自慢して何が悪いのよ?本当の事なんだし、いいじゃない?」
「良くない!高校生にもなって、仲良し親子って見られたろうが!」
「?…いい事じゃない?」
「はっ?!」
ダメだ…
話が通じね~
オバチャンの感覚はおかしいんだ
「おお、莉玖。受診終わったのか」
ちょうど昼休みに、学校に到着すると
すぐに、蒼渚が話し掛けてきた
「……終わった…」
「何ふて腐れてんだよ?お友達の三角巾と離れて寂しいのか?」
蒼渚まで、滅多に言わない冗談で馬鹿にしてきやがって
「おばさんと喧嘩でもしたか?」
「……喧嘩ってか…」
「ん?」
「母さんが…先生と看護師さんの前で、優しい子とか言うから…高校生にもなって、仲良し親子だと思われた…すっげぇ恥ずかしかった…」
同じ高校生男子なら分かるだろ?
あの…
皆にニコニコ微笑ましく見られる屈辱!
「なんだ…莉玖が優しいのはほんとだし、仲良し親子もほんとだろ?」
は?
「ほんとかどうかは関係ねぇよ!そう見られんの、恥ずいだろが!」
「そう?俺は別に、そうは思わないけど?」
「えっ?!マジで?!」
そうは思わない?
恥ずかしくないの?!
「神谷~…俺様、黒木と共に登場~!そして、俺達の可愛い弟も連れて来たぞ」
「莉玖!病院…どうだった?」
「凪彩…もう来なくていいってさ。凪彩がリハビリ付き合ってくれたお陰だ。あんがと」
「ほんと?良かったね」
ほっとした笑顔
これで凪彩も、気を遣わなくて済むだろ
「凪彩、お前の兄は今、思春期真っ只中に居るぞ」
「思春期…?」
「蒼渚!余計な事言うなよ!」
「凪彩は、人前でおばさんに褒めてもらったり、親子仲良さそうに見られんの恥ずかしいか?」
「?…恥ずかしい?…恥ずかしくないよ?」
「だよな?お前の兄は、恥ずかしいらしいぞ?」
だって!
凪彩は、なんか違うだろ!
「凪彩は、中1まで、ばあちゃんに育てられたんだろ?」
「うん」
「ばあちゃんと、仲良さそうにしてんの見られんの、恥ずかしかった?」
「あんまり…どんな風に見られるか考えた事ない。俺にとって、ばあちゃんは1番大切な人だったから。いつまで一緒に居られるか分かんないから…一緒に居られるの…嬉しかった」
あ…
いつまで一緒に居られるか…
分かんないから…
凪彩は
母さん亡くしてるから
それを、実感してるんだ
「思春期の兄…」
「その呼び方やめろ!」
「仲良し親子が一緒に居られるのは、たった数年だぞ?もっと噛み締めろ」
「~~~っ!」
くそっ!
なんか…俺だけ子供みたいじゃん!
「でも、俺も、あんまり親とは歩きたくねぇな。愛葵とは、いつでも一緒でいいけど」
「うん♪︎」
その兄弟関係も、どうかと思うぞ?
けど、やっぱ俺と同じ考えじゃねぇか!
俺だけが変じゃねぇぞ?!
「黒木は?!黒木の意見聞かせろ!」
「莉玖…興奮すんなよ」
「興奮してねぇ!」
「俺?俺ん家は、兄ちゃん1人居るけど、もう家出ちゃったし、家出た途端、全然会わなくなるもんなんだと思ったら、今のうちに親孝行しておこうと、けっこう家族で出掛けてるぞ」
「なっ?!…裏切り者!」
「あ?裏切り者って何だよ?」
家出た途端…
全然会わなくなるもんだと…
「ま、恥ずかしがってる莉玖も、それはそれで、おばさんにとっては可愛いだろうから、いいんじゃね~の?」
「かっ…?!」
恥ずかしがると、可愛いと思われてんの?!
その方が、もっと恥ずかしくね?
ふと、凪彩を見ると
?
って顔で、俺を見てる
たしかに…
これは…
思春期の恥ずかしい兄かもしれない!
「分かったよ!恥ずかしくねぇよ!仲良し親子見せつけてやろうじゃねぇか!」
「なんでキレてんだよ?」
母さんと仲良し親子なとこ…
………
「キモっ!やっぱ無理!」
「秒で無理だったな。無理すんな。俺は、莉玖の思春期の恥じらいを、間近で楽しませてもらう。大いに恥じらえ」
「~~~っ!」
俺が子供なのか?!
来年になったら大人になってる?
大人になったら、恥ずかしくないのか?
大人になった頃には…
親と離れてんのかな…
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