舞台裏で水蛇は踊る

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舞台裏で水蛇は踊る

「ちっ……違うんだ!俺は何も知らない!」  体に巻き付く、蛇のような感覚。  冷たくて、溺れそうだ。  鱗が無い代わりに、『激流』が皮膚の表面を襲う。  そう、巻き付いているのは本物の蛇ではない。  ────水の、蛇。 「本当ですか?」  逆光の向こうから歩いてくる、灰色の長髪の男が微笑む。白衣が翻り、薄汚い路地裏だというのに耽美な彼の周りだけは華やかに見えた。 「本当──本当だ!」  必死にもがくが、巻き付いているのが水の塊なので思い通りになるわけがない。  だがまだ死ぬわけにはいかないので、本能が生きたい生きたいと必死に体を動かす。  体力がすり減る。  苦しい。苦しい、苦しい────!! 「そうですか……。残念です」  そう言うと、巻き付いている水蛇が大きな口を開けた。口と言っていいのかわからないが、確かに口のような部分が大きく開いた。 「ま、待て!ルシアス!」 「……」  彼はピクッと反応し、動きを止めた。 「1つだけ教えてくれないか」 「……よいでしょう」  『ルシアス』は水蛇を操作するために上げていた手を下ろした。 「お前は死んだんじゃなかったのか!?あの爆発で!!」  研究所を包む、あの爆発。  赤くて、熱くて、研究の成果を守るどころではない、大爆発。  『紅い宝石』と『生まれた場所』が離れたことによる、自浄作用。  一番爆心地に近かったのは誰でもない、目の前にいる男────ルシアス。 「……………………はぁ」  彼は小さくため息をついた。 「な、何がおかしい!」 「腐っても私の部下だったというのに、そんなこともわからないんですか?」  ルシアスは“滑るように”こちらに向かい、気付けば目と鼻の先の距離になっていた。  顎をクイ、と上げられ、息がし辛くなる。 「ぐっ……!?」 「答えは簡単です」  優しいとも厳しいともつかないその赤い目の持ち主は、スッと目を細めた。 「生きてちゃ、悪いですか?」  ──ゴキッ!!  ────凄惨な音がした。
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