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「そ、それは……何ですか……」
「これは記憶を消す薬です」
「!?」
そんなものが存在したなんて!という顔をしているが、私は何でも作れる研究者だ。これくらい、いくらでも作れる。
「今ここで、これを飲んでください。副作用は何が起こるかわかりませんが、きっと、次の日には私のことを忘れているでしょう。さあ…………さあ!」
グイグイと手に押しつけ、握らせる。
ヤバそうな薬だということと、さっきまで自分を痛めつけていた悪魔から得た布、そして私の怪しさに彼は頭がクラクラしていることだろう。
「で、ですが……!」
「おや、『命の恩人』の言うことが聞けないとでも?」
私は目を細めた。
「う、うぐぐ……!」
「ほら、イッキ♡イッキ♡」
「待って待って!なんか違う!なんか違うから!あと布ごとは嫌だ!」
彼は必死に顔を背ける。
「飲む!飲みます!飲みますからぁ!!」
情けない叫び声を上げたところで私は力を緩めた。
ちゃんと飲んでくれるかまだ怪しいので、彼がカプセルを袋から出して、手に取るまで見張った。
「………………」
「お水については心配なさらないでください。こちらで用意しますから」
結界を作り出し、それをコップの形にする。魔法で水を出し、中に入れた。傍から見ると、水が四角の形になって浮いている。
「さあ……」
コップを差し出す。
彼は左手に薬、右手にコップとなった。
NOなんて言葉は聞かない。
痛みと記憶、どちらを取るかなんてわかりきっているだろう。
ここはただの路地裏だけど、なんと言っても『コルマー』だし、飲むだけなら悲鳴も断末魔も上がらない。
誰も気付かないのだ。
「…………」
真剣な顔をしてカプセルを見つめているが、そんなことをして時が進むとは思わないでほしい。
「────ごくっ!!」
あ、飲んじゃった。
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