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「はい、確認しました。では、ごゆっくりと」
受付嬢がお辞儀をする。
こんな治安の悪いところにいて大丈夫なのかと思ったが、まぁ、悪魔なのだし大丈夫だろう。
「ありがとうございます」
私はルームキーを受け取り、部屋に向かう。
確かここは昔、殺人事件が起こった“いわくつき”の場所だ。
呪いのリボンを身に着けた女の子が、複数の大人相手に大立ち回りし、全員を殺害したとかなんとか……。
半分信じがたいことだが、ここは『魔界』だ。何が起きてもおかしくはない。
「ここですね」
ガチャ、と扉を開いて中に入る。茶色い壁に、ドレッサーや絵画。ベージュ色のカーテンの向こうには窓がある。先にカーテンを開けてしまおう。
ずっと地下の研究室にいたため、最近の街はよくわかっていなかった。しかし、『彼』を探すためにこういうホテルを転々としていくと、ああ、魔界は成長しているんだなと実感できた。
最初の方は部屋に入ると「広いですねぇ」「綺麗ですねぇ」と驚くことが毎回だった。
新しい発見は研究者にとって大好物だ。何事にも動じない人と思われがちだが、こういうところはしっかりと『研究者』が出てくる。
「さて……」
少し休憩を、とベッドに座る。ふかふかのベッドだ。
地下にいた時はベッドの上にも資料や本、ペンなどが散乱しており、いつ新しい考えが浮かび上がるかわからないのですぐに書けるようになっていた。
そのせいでかなり窮屈だったが、今はその研究セットはどこにもない。爆発で全て灰になってしまった。
「ふふふ、広いですね。寝返りがしやすそうです」
苦笑いをして、窓の外を見る。
悪く言うつもりはないが、相変わらずコルマーは今も昔も物騒だ。しかし復興となると、一致団結する。そこが好きだ。
「…………そろそろ情報収集しますかね」
異界から取り出したのはPC──パーソナルコンピューターだ。
……魔界にはインターネットは無いって?ふふふ、そこは企業秘密。悪魔の研究者だもの、秘密の1つや2つ、3つや4つ……まぁ、いくつかあったっておかしくはないでしょう?………………でしょう?
──まずはリストの更新。その次は今日水蛇さんたちが持ってきた最新情報を入力。さらに、明日のスケジュールを入力。『彼』の情報は……無いのでスキップ。
カタカタカタとキーボードを操作していく。
全部書いていくと時間が足りないので、情報の束となった他より小さな水蛇さんたちがPCに飛び込んでいく。水蛇さんたち全てが魔力の塊、つまり使い魔なので水没する心配はない。物理的に情報がPCに保存されていくという感じだ。……わかりにくいかな?
「明日は──あぁ、彼もいい人だったのに」
──明日の犠牲者が決まった。
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