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──シュルルッ!
袖から黒い紐のようなものが出てきて、私の杖を握る腕に巻きつく。ギチギチという音がするほどに強い力だが、それだけのようだ。
もっとこう、毒が滲み出るとかでも良かったのに。惜しいなぁ。
「それだけですか?」
「…………」
彼は何も言わない。
そうか、彼はギリギリなのか。他人の魔力を奪わなくてはならないほどに消耗していて、今魔法を撃ったから声を出すための筋肉を動かす魔力が無くなっている。
──どこまで私を落胆させれば気が済むのかね?
「…………あなたには苦しんでもらおうと思いましたが、気が変わりました」
私は取り出そうとしていた小さな欠片をポケットの底に落とした。
あのペンダントよりも小さなものだが、これは私が『紅い宝石』の作り方を忘れないようにと試作したものだ。
スピードも、強度も、容量だって桁違いだろう。大きければ大きいほどスピードも強度も容量も増えるが、作り手によって質が変わることを身をもって体験してもらいたかったのだがね。
あぁ、貴重な機会を失ってしまったよ。
「じゃ、じゃあ……?!」
触手の強さが少しだけ緩くなった。
「何を勘違いしているのですか?あなたには、一番得意で、ここで発動しても別に練習とかプラスになるようなことのない、全く意味の無い死を与えると言っているのです。無駄死にしていただきましょう」
私は杖に魔力を込めた。
白とパッションピンクのコントラストが美しい杖。真珠のようなオーブの中心が輝き始め、水が湛え始める。
「『何も手に入らない』とは、私の嫌いな言葉です。『失敗は成功の母』と言いますが、失敗ですら何かが手に入るのです。成功しても手に入らないのは、割に合わないでしょう?」
「ならしなくてもいいじゃねぇか!」
「いいえ。──それほど、私は怒っているのです」
──パァン!!
破裂音がして、触手が弾け飛ぶ!
「あ゛っ……あ゛ああっ!?あっ、あ゛あっ!!」
よたよたと後退りし、ボタボタと黒い液体が滴る腕を抱える。苦しそうだ。
どうやってやったのかというと、もちろん彼の体内にある水分を増やし、内側から破裂させたのだ。イチから生み出すのではなく、元々あるものを使うので、こういう水の魔法系統では初歩の初歩だ。
「なるほど。神経と繋がっているからこそ、あんな動きをすることができたのですね。これは予想外の収穫です。まぁ、気持ち悪いから使わないかと思いますが」
腕に残った触手の残りを振り払い、杖を振るう。動きに反応し、私の周りに浮いていた水蛇さんたちは新たに生み出した魔力の水とともに力を蓄えていた。
「さあ、水蛇さんたち。あれがあなたたちの今日のお食事ですよ」
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