光と影

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 翔兄さんは父さんの胸に手を置き、心臓マッサージを開始した。  翔兄さんの動きは迅速で正確だった。一度、二度、強く圧迫するたびに、希望がわずかに見え隠れするようだった。俊兄さんは懐中電灯を振り続けながら、心配そうにしていた。私も救急隊に現在地を伝えながら、涙を堪えていた。 「1、2、3、4…」翔兄さんのカウントが響く。必死の思いで胸を押し続けるその姿が頼もしかった。  やがて、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。私はその音に安堵しながらも、父の顔から目を離さなかった。 「もう少し、もう少しだけ頑張って」  心の中で繰り返していた。  救急車が到着し、救急隊員たちが迅速に対応を始めると、翔兄さんは一歩下がり、俊兄さんに救急車に同乗して連絡係になるように言った。病院に着いたら、病院の名前を私にメッセージすること、すぐ母さんに電話を入れることを指示した。  走り去る救急車の後ろ姿を見ると急に涙が溢れてきた。そのまま足の力が抜けて膝をついた。翔兄さんが駆け寄りしゃがむと、私は翔兄さんにすがりついて泣いた。  未熟な私や俊兄さんには持ち得ない大人の包容力で「よしよし」と、わたしを猫のように撫で続けてくれた。
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