牙と甘噛みのキス

1/1

41人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

牙と甘噛みのキス

項にかかった髪を乱暴にかき分けられ、そこに彼の吐息がかかるのを感じた。痛みにも備えながら、高まっていく快楽にも身を委ねた。再び押し寄せたうねりを感じて、何か硬い尖ったものが項に触れた、と思った次の瞬間、鋭い痛みに私は息を飲んだ。 「くっ…、あ、ぅ…」  予想もしない激痛に言葉が出ない。 噛まれるのってこんな感じなの?  ナイフでも突き立てられたような鋭い痛みだった。体が強ばり、到達直前だった快感の波がすうっと引いていく。振り向こうとした私の鼻腔に、つんと血の匂いが飛び込んできた。 ケイはまだ私の首から離れない。このままでいいのか声をかけようか迷っていると、彼が傷を舐めてくれた。嘘のように痛みが退いて、快楽が再開された。 「あぁ…っ、ん、ケイっ…」 「ああ、花梨…。愛してる…」  吐息とともに口にして、そのあとケイは無言のまま、息を切らして何度も私を突き上げた。痛みから解放された私もまた彼に溺れていった。ケイは再び私の項を噛んできたが、今度は優しく咥えるような仕草だったので、私は安心して彼に身を任せた。 「ん…、あ…っ、あっ…」  ケイの動きが速くなった。背中からかき抱かれ、奥まで深く何度も突かれた。形を変えた私の中を彼が埋め尽くし、極限まで膨張したのを感じた時、彼が一閃を解き放って私たちは同時に果てた。 しばらく暗がりの中で、お互いの息づかいを聞いていた。少し呼吸が落ち着いたところで、ケイが私にキスをしてきた。舌に微かに残る血の味にさっきの痛みが呼び起こされた。 「悪い。抑えきれなかった。血が、欲しくて…」 「吸血鬼(ヴァンパイア)の本能が出たね」 「加減が出来ないんだ。(つがい)が成立するかわからない」  あれはそういう意味だったのか。愛おしくなって私は彼を抱き寄せた。 「牙を立てるのも甘噛みも、ケイにされるならどっちでもいい。ずっとそばにいてくれるなら、そのうち成立する日も来るよ」 「もっと本音を言うと、項より唇がいいんだけど」  ケイが照れたように打ち明ける。出会ったその日に彼にキスをされたことを思い出した。 「じゃあ、あのキスは…」 「傷を治すのは口実で、俺にとっては最上級の愛情表現だ」 「ずっと唇に噛みついてきたのも、ケイにしたらさっきの、その…」 ヒートセックスと同じ意味合い… 「ははっ。やっと気づいたのか」  いつもクールな彼が声を上げて笑った。 αだけど吸血鬼の血を引くケイ。彼に抱かれてとても満たされたけど、甘噛みのキスが大好きな彼のために、私はこれからも喜んで唇を捧げよう。まだ番にはなれてなくても、二人の間にはキスで繋がった甘やかで揺るぎない絆がある。 「パイもコーヒーも後回しだな」  私は微笑んで彼に口づけた。尖った牙が私を優しく(えぐ)り、舌が傷を癒やしてくれる。ありのままの私を欲しいと言ってくれたケイを、私もそのまま受け止めたい。ヒートはまだ始まったばかり。二人の匂いに閉じ込められて、しばらくは巣籠もりしたい気分だ。唇を離して見つめ合うと、私たちはまた手を伸ばしてお互いを抱きしめた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加