ヒート中のΩは介抱される

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ヒート中のΩは介抱される

 目覚めたのは白っぽい視界の中だった。 頭が重く、相変わらず体調は最悪だ。抑制剤を飲んでいないのだからヒートが収まるわけもない。忌まわしい体のことを知ったのはつい最近で、私はまだ自分の体をもて余していた。 男女以外に第二の性別がある。ほとんどはβ(ベータ)と呼ばれるごく普通の人たちだが、ほんの一部にαとΩが存在する。αが容姿端麗のエリートで社会の頂点に立つのに対し、Ωは身体能力で劣っている場合が多い。社会的地位が低いΩは、一定の保護を受けながら暮らしている。 三ヶ月に一度の発情(ヒート)の期間中、Ωはαを誘う(発情が強い場合は、βも刺激されることがある)フェロモンを放出して、本人の意思とは関係なく、しかも身籠る方向に体がシフトする。特定のパートナーがいればいいのだが、誰彼構わず誘うようなフェロモンの香りに理性を失う男は多く、望まないセックスを強いられるΩは後を立たない。 ヒートの抑制剤はかなり改良されたし、以前よりもΩの人権は保護されている。それでも、Ωであるだけで差別されたり、性欲解消の商品にされることも(いま)だにあった。私が売られたのもそういう理由だ。 すぐに自由になるのは視線だけで、私はそれを駆使してぐるっと部屋を見渡した。清潔なベッドに寝かされていて、白っぽいのは陽射しがたっぷりと射し込んでいたからだった。部屋に微かに残る香りに覚えがあった。あの時嗅いだひだまりの匂いに手繰り寄せられて記憶が戻ってくる。 体は 何とか動きそうだ まるで筋肉痛のように強張った体を叱咤して、ベッドに半身を起こした。視点が変わると辺りの様子がはっきりわかったが、何もないがらんとした部屋だった。 ベッドサイドのテーブルにミネラルウォーターと抑制剤が置いてあった。知らないメーカーだが、ないよりは全然マシだ。箱を開封して錠剤を取り出し、口に含んで水で流し込んだ。喉が乾いていたから、飲み始めると止まらなくなった。500mlのペットボトルを一気に半分ほど空けて息をついた。 ここはどこだろう あの男の家なのだとは思ったが、とても静かだ。汗をかいて雨にも濡れていたはず。一度シャワーを浴びたいと、ベッドを降りようとして自分の姿に驚いた。 白のリネンの部屋着のような、Tシャツとゆったりした七分丈パンツの組み合わせ。顔や髪に手をやるとあまりべたつきもない。ただ、頬に残る擦り傷に触れると、ちりっと痛みが走った。 どうやら誰かが丁重に介抱してくれたらしい。それがあの男なら肌を見られたかもしれないと、途端に羞恥の感情が沸き起こる。 しかし、何かのトレーニングをした後のような気だるさと足腰の痛みはあるが、それはずっと走って逃げていたり、転んだ時にしたたかに打ちつけたりしたせいだろう。陵辱された形跡はなかった。
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