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「初めての花梨には、刺激が強いかもな」
「平気」
私も彼が欲しかった。ねだるように自分から唇を重ねると、ケイは私を受け止めてからまた愛撫をくれた。
立っていたら膝が抜けていたかもしれない。それほどまで彼のキスに、私は生まれて初めての恍惚を覚えていた。数えきれないほど私の唇を味わい、最後にケイは私の下唇を噛んだ。
「い…っ、た」
一瞬だが鋭い痛みが走って、口の中に鉄の匂いが広がった。
「あの時のお返しだ」
呆然とする私をよそに、ケイはくすくす笑いながら、それすらも絡めとるように舌を巧みに使う。傷は舐められてすぐに塞がったかのように、何の違和感もなくなった。
「やっぱりおまえが欲しいな」
声はいつものように穏やかだったが、ケイはため息をついて私をぎゅっと抱きしめた。
「今?」
「いいや。次のヒートまで待つ。だいたい、あの香りをやり過ごせたんだ。もっと褒めてもらいたいくらいだぞ」
今回のが予定外だったから、サイクルが戻るならひと月後だ。それともここでリセットされてもっと後になるのか。ストレスでヒートが狂うことがあるとは聞いていたが、彼とのその時間がまだ先だと知って、残念に思う自分に呆れてしまい、一人で頬を熱くした。
不特定多数の男を相手にする、商売女になるはずだった。そんな人生を嘆いていたはずなのに、ケイにはこうも簡単に体を捧げたいと思ってしまう。私はまだ自分の体を把握しきれていない。
「痛かったか」
ケイが私の唇を親指でなぞって尋ねた。
「俺なりの愛情表現だ。もう大丈夫だろう?」
「うん。ちょっとびっくりしただけ」
「ははっ。悪い。我慢できなくて」
照れたようなケイがいつもより近く感じた。
「今でもいいよ」
その顔に背中を押されて、私は想いの欠片を口にした。彼の目が驚きに見開かれたが、すぐにまた笑顔になった。遅れてやってくる恥ずかしさに、声が震えないように強がって見せた。
「いいよ。ケイなら」
「無理しなくていいんだぞ」
そう言ってケイはまた私の唇を噛む。優しく舌を這わせて滲みだす体液を弄んでいるみたいだ。私はその感触にまたうっとりとなる。
「これだけでも俺には十分なんだ」
「血が欲しいの? 吸血鬼みたい」
冗談のつもりだったのに、間があいた。彼が小さく笑った。いたずらが見つかった子どもみたいだ。
まさか。
「ケイ?」
「そうだよ。俺は吸血鬼だ」
謎めいた笑みを見せる彼の瞳は、また紅く輝いていた。唇の陰にヒトにはない尖った牙が見えた。
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