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「わか…りました…」
「…」
「せいちゃんに、あえますか?」
「はい、容態は安定しておりますので…」
「部屋は?」
「病棟一の303号室です」
病棟一は、個室だ…私は立ち上がって涙を拭き、先生に頭を下げて診察室から出、せいちゃんのいる部屋へ向かった。
病室に入ってすぐ、せいちゃんの寝ているベッドの横の椅子に座り、せいちゃんの左手を私の両手で包むように握る。
「せい…ちゃん…」
深く眠っているらしく、声を掛けても反応がない。
「私の命と引き換えに…引き換えになるんだったら…」
「ル…ナ?また…そんな事言って…るのか?」
寝ていたと思っていたせいちゃんが、私に声を掛ける。
「せい…ちゃん?」
「うん…お前が…そんな事言う…ってことは…僕は…」
「そんな事ない!!治る!」
「嘘…だろ?お前は…嘘つく時…目を…逸らす」
せいちゃんには、あまり嘘は付いたことないが、嘘を付く時私は目を逸らすらしい。
「…」
「お前の…お腹には…大事な命が…宿ってるんだ…気休め…でも、そんな事…言うな…」
「分かった!もう言わない!」
私は目に涙を溜めて言う。せいちゃんは、溢れた涙を左手の人差し指で拭ってくれた。
「それに…お前…には…夢がある…だろ?」
「うん…」
「なら…それに向かって…突っ走れ!」
「うん!うん!」
「大丈夫…僕はまだ生きれる…ルナとの子は…見れないかも…だけど…」
「そんな…」
「自分の…ことは…自分がよく…分かってる…」
「…」
もう、何も言えなくなった。確かに、死期が近付くと人は死期を悟る…。
「もう…泣かないで…欲しい…」
「わ、分かった!」
私は涙を吹いて、無理に笑って見せた。
「そう…多少…引きつってるけど…その笑顔…」
「多少は…一言多い…」
「はは…そうだね…」
「うん…」
「先生は、なんて?」
「難病の…全身性アミロイドーシスだって…」
「アミロイドーシス…学生の頃…聞いた事あるな…」
「え?そうなの?」
「うん…地元の…医師目指してる奴が…そんな病名…言ってたな…」
「へぇ…」
「確か…アミロイドーシスを…治す…薬作る…って言ってた…」
「…」
「皮肉…だよな…アミロイドーシスを治すって…言ってた奴…がいたのに…僕が…その病気に…なるなんて…」
確かに、皮肉なのかもしれない。まさか自分がその病気にかかるなんて、夢にも思わなかっただろう。
「せいちゃん…愛してるよ」
「僕も…愛してるよ…」
私はゆっくり、せいちゃんの口に口付けした。
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