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終話
とある夏の終わり…
「ルナさん!」
屋上で、白衣を風に靡かせながら黄昏ている女性に向け、声が掛けられた。
「栗橋さん?」
顔見知りなのだろう、驚きつつも何か懐かしい、そんな表情をしているルナと呼ばれた女性は、栗橋と呼んだ女性を見やる。
「どうしてここに?」
「どうしてって…旭くんが、ここに高瀬さん勤務してるって言ってたから…」
「あのバカ旭!!余計なこと言って無かった?」
「余計な事?」
「言ってないなら良いのよ!」
「うん…でも驚いた!子育てしながら医師になってるなんて!」
「まぁ…ね…せいちゃんと約束したし…」
「せいちゃん?ああ!誠一郎君のこと?」
「うん…そう!」
ルナは、笑顔で栗橋に言う。
「そう言えば、お子さんは?」
「ここの託児所に預けてるわ!」
「あ、もう夏休みか!」
「うん」
「会いたいな…」
「行く?私もう少し時間あるし…」
「行く!!」
「フフ…」
ルナは、栗橋を連れて託児所へ向かった。
「セイナ!」
「ママ!?」
託児所で、元気に遊んでいた女の子に、ルナが声を掛けた。
「お利口にしてる?」
「うん!ママの言いつけ守って遊んでる!」
「お利口お利口!!」
ルナは、誠奈の頭を撫でる。
「ママ…後ろの女の人は?」
「あぁ…私の同級生の栗橋さん」
「栗橋…さん?」
「そう、セイナに会いたいって!挨拶して?」
「あ、うん!栗橋お姉さん、初めまして!高瀬誠奈です!」
「あ、は…初めまして!栗橋って言います…」
あまりにもきっちり挨拶をしたからだろう、栗橋は、驚きの表情で挨拶する。
「ちゃんと教育してんのね?」
「当たり前よ…医師兼主婦舐めちゃいけないよ!?」
ルナは自信満々の表情で、栗橋に笑って答えた。
「ママ、お仕事は?」
「もうすぐ始まるから、お利口さんにしててね?」
「うん!わかった!」
ルナは、セイナをハグしてから「行ってきます」と言った。
「そういえば、誠一郎くんのお母さんは?」
「珠江さん?せいちゃんの家でのんびりしてるよ?」
「今日仕事じゃないんだ…」
「え?もう早期退職してるわよ?」
「そうなの?」
「うん、ルナが立派な医者になったから、私はもう退職だって…」
ルナは微笑み、託児所を後にする。
「じゃ、私はここで!」
「あ、うん!頑張って!」
「うん!旭に余計なこと言うなって言っといて!」
「分かった!」
栗橋は、笑顔でルナに言い、手を振って立ち去った。
「さて…」
ルナは伸びをして、自分の持ち場に戻って行った。
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