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夕方
私は、セイナと一緒にせいちゃんのお墓の前にいる。
せいちゃんが息を引き取った後、地元にせいちゃんの遺骨と共に帰り、地元で一番の医療大学に首席で合格し入学した。
それからは、珠江さんの手が空いてる時に、セイナを見てもらいながら大学を首席卒業した。
「セイナ…ちゃんとパパに手、合わせて?」
「うん…」
お盆ということもあり、仕事の合間にお墓の手入れをしに来たのである。
「ママ…パパはここで寝てるの?」
「うん、そうだよ?」
「狭くないの?」
「大丈夫よ…セイナがもう少し大きくなったら、また、詳しく教えてあげるわ!」
「もう少しってどれくらい?」
「うーん…もう少しは、もう少しね!」
「…」
セイナは目を瞑り、手を合わせた。
せいちゃんが息を引き取って、早七年…ちょうど数日後は、せいちゃんの七回忌だ。
「よし、じゃあ…戻ろっか?」
「うん…」
私はセイナの手を引き、病院へ歩いて向かう。
せいちゃんは、「もし、好きな人が出来たら…僕に構わず、その好きな人と一緒になって欲しい」って言ってたけど、今はそれは考えられない。
珠江さんも、「そろそろ良いんじゃない?」と言っていたが、まだ少し未練があるみたいだ。
「ママ!今日の夜ご飯何?」
「何が食べたい?」
「シチュー!」
「よーし!腕によりをかけて作ってあげる!」
「やったー!」
セイナの足取りが軽くなった。
「よーし!病院まで競走!!」
「あ!ママズルい!」
病院までは、もう一本道。車の通りも少なく、見晴らしの良い坂道になっている。
「ズル!ずる!」
今にも泣き出しそうな顔で、セイナは私を追いかける。
「う…うぅ…」
「あーごめん!!セイナ泣かないで!」
私はすぐ、セイナを抱きしめて謝る。
「ぐすっ…」
「良い子だから、泣かない…泣かない…」
セイナの背中を撫でながらあやす。
「落ち着いた?」
「う…ん…」
またセイナの手を引き、ふと後ろを振り返る。
「せい…ちゃん?」
振り返った先の電柱に、せいちゃんの様な人影らしきものが見えた。
私は霊感など無い…お盆だから会いに来てくれた?
「ママ?どうしたの?」
「ん?なんでもない…」
セイナを見て、もう一度後ろをみたが、電柱にはもう人影は無い。
『お盆だからって事にしとこう』
心で呟いて、微笑んだ。
坂を登り追えると、もう目の前に、病院が見えていた。
そして、もう一度後ろを振り向いたが…やはり人影は無い。
『せいちゃん…私、頑張ってるよ!』
夕日になりかけの太陽を見ながら、心の中で呟いた。
『私たちの子もスクスク育ってる…ほんとに、好きな人作っちゃうよ?』
太陽を見ながらそう思っていると、セイナが手を引く。
「ママ?」
「あ、ごめんごめん…」
セイナに謝り、もう一度太陽をみた。
『私は、貴方と過ごせて幸せでした!』
ヒグラシの鳴き声が、『僕も幸せだったよ!』と言っているように聞こえた。
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