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帰省
数日後、計画した通り私とせいちゃんは、故郷に帰ることが出来た。
せいちゃんは有休を取り(お父さんが倒れたと言ったらすんなりことが進んだらしい)、私はバイトを辞める形に収まった。
私がバイトを辞めたぶん、僕が稼げばいい話だとせいちゃんが言っていた。
着くなりせいちゃんの実家の、せいちゃんが使っていた部屋に荷物を置き、急いで珠江さん(せいちゃんのお母さん)が居る病院へ…余談だけど、珠江さんは看護師をしているので、お父さんの入院している病室にすぐ案内してもらえた。
病室は個室で、腕には点滴、鼻にはチューブが差し込んである。
「お袋…容態は?」
「腕の良い脳外科の先生が手術してくれたんだけど…このまま目覚めない事も覚悟して下さいって…」
「そんな…」
私は、せいちゃんと繋いでいた手をギュッと握り、下唇を噛んだ。
「お袋が親父を受け持ってるの?」
「そうよ…無理言ってお願いしたの」
「そうか…お袋、やる事やったらあとは僕達が見てるから、少し休んだら?」
「でも…」
「良いから!お袋が無理言ってお願いしたって事は、付きっきりだったんだよね?」
「うん…」
「だったら、少し休んでもバチは当たらないと思う」
「わかったわ…」
珠江さんは、体温を図り、血圧を測って、点滴を交換して、重い足取りで外に出て行った。
「ルナ…座ろう」
「うん…」
私は枕元付近に、せいちゃんは私の横に、背もたれの無い丸椅子に座った。
座ってすぐ私は、お父さんの手を取り私の手で包み込むように握った。
眠っているお父さんを見ると、だんだん悲しくなってきた。
「お父さん!私よ!ルナよ!」
こういう時は、声をかけた方がいいと聞いたことがある。
「また、釣りに連れて行ってよ…一緒に海で泳ごうよ…」
昔の記憶が、走馬灯の様に頭の中を駆け巡る。だんだん、目に涙が溢れてきた。
「なんで…今なの…なんで…」
嗚咽まじりの私の声に、せいちゃんは私の背中を優しく撫でる。
「お父さんが…元気になるなら…私の…命と引き換えでも…」
私の声はだんだん小さくなっていく。
「変われるなら…変わってあげたい…」
「ルナ…」
見かねたせいちゃんは、私をそっと抱き寄せて、頭を撫でた。
「う…うぅ…」
止めたくても、涙が止まらない…せいちゃんは、無言で私を撫でて慰めてくれている。
それから数十分涙が止まらなかった…。
ようやく落ち着いた頃、珠江さんが病室に入ってきた。
「ルナ、誠一郎…今日は帰りなさい」
「わかった…お袋は?」
「もう少しここに…帰り遅くなるかもしれないから、ご飯は冷蔵庫にあるもの使って食べなさい?」
「そうする」
私とせいちゃんは、病室を後にして帰路に着いた。
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