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死・命
帰省して四日後、親父の容態が悪化し、そのまま帰らぬ人となった。
お袋、ルナと会話することなく...。
あっという間の出来事で、実感が湧かない。それに対してルナは、大泣きしていた。
「お父さん...何で...?お父さん...」
心肺停止してからずっと、親父の手を握りながら大量の涙を流し、駄々を捏ねる子供のようにすがりついて泣いていた。
「うぅ...」
僕はただ、彼女の背中をさすってやる事しか出来なかった。
「ルナ...」
「わかってる...」
病院側の処理もしなければならないので、ずっとすがりついて泣いている訳にはいかない...と、彼女も分かって居るだろう。
「この場はお袋に任せよう...」
「うん...」
僕達は病室から一旦出て、待合室でお袋を待つ事にした。
「...」
待合室の椅子に座って待つ間、ルナは一言も話さなかった。僕の肩に頭を寄せ、ただひたすら黙っていた。
僕はルナの肩を抱き、下を向く事しか出来なかった。
『これから忙しくなるな...』
通夜に葬式...会社には、事情を話してもう少し休みを貰わないと...。
『それに、最近ルナの様子がおかしい...』
変な意味で...では無い。何となく、具合がよろしくないように見える。
『大丈夫だと良いんだけど...』
ルナの方を見ながら、心の中で呟いた。
手続きを終わらせたお袋が、待合室に来てルナの横に座る。
「ルナちゃん...」
お袋が、ルナの肩に手をポンと置いて言う。
「珠江さん...もう終わったんですか?」
「えぇ...」
お袋は、どう言う言葉を掛けたら良いか分からず、少し戸惑っているようだ。
こう言う場面は、何度も遭遇している筈なのだが、身内となると戸惑いを隠せないようだ。
「誠一郎...まだ休めるの?」
「会社に電話しとく...何日くらい休み伸ばしたら良い?」
「多めに見て、一週間位かしら?遺品整理も手伝って欲しいし...」
「わかった...ルナ...」
「うん...」
僕とルナは立ち上がり、お袋と一緒に一度外に出た。
「親父はいつ家に?」
「明日までには何とか...」
「わかった...先に帰ってるよ」
「えぇ...今日夜勤だし、明日の朝に一緒に帰るわ」
「うん」
お袋と別れ、タクシーを呼んで乗り込んだ。
「ねぇせいちゃん...」
「ん?どうしたの?」
「ずっと考えてたんだけどさ...」
「うん?」
「私...もう一度、大学行くわ...」
「え!?本気か?」
「うん!」
下を向いたまま、爆弾発言するルナに驚いた。
そもそも彼女は、四年大学を二年生で一度中退している。
大学に行ける頭があるから、1年位勉強すれば間違いなく合格出来るだろう。
「どこの大学へ?」
「医学部があれば何処でも良い」
「おま...まさか...?」
「うん!医者になりたいの...それも外科医...」
「外科...?マジで?」
「うん!もう決めた!」
「学費はどうするんだ??」
「何とかする」
「何とかって...そもそもなんで急に?」
「上京した頃から思ってはいたの...」
上京した頃と言えば、もう二年も前だ。
「わかった...学費は僕も少しは出すから...」
「良いの?」
「うん、ルナがそう決めたんならフォローできる限りやるから」
「ありがとう...」
窓の外を見ると、もう家が近いことがわかった。
「運転手さん、この辺で...」
「あ、はい!分かりました!」
安全な所で止まってもらい、料金を支払って車を降り、歩いて家に向かった。
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