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始まり
何時から、僕は“死”を意識したのだろう?
都会の空に浮かぶ満月を眺めながら、ため息をついて考えた。
「何時から?」
声に出して問うてみた。
が、思い当たる節もなく、ただ漠然と満月を眺めるのだった。
「せいちゃーん!」
ふと、後ろから、都会の騒音さえもかき消すような、大きな見知った声がする。
「ルナか…!?」
言い終わる前に、ルナが僕に抱きついた。
「な…!?こんなに人目の多い所で…」
「良いじゃん!減るもんじゃないんだし!」
彼女は抱きついたまま、頬をぷくっと膨らませて言う。
彼女は高瀬ルナ。僕、高島誠一郎が上京してまもなく、後を追って上京して来た、幼なじみで恋人である。
「あんまりベタベタしてると、周りの人から…」
「周りは周り!せいちゃん昔からそうだよね?」
やっと僕から離れて腕を組む。ルナも昔からこういう所は変わらない。
「わかったよ…怒るなって…」
「別に怒ってないもん…」
余計に頬をぷくっと膨らませて言う。
「PiRiRiRi…」
急にスマホが鳴り出す。画面を見ると、どうやら母親からだ。
「誰?」
「お袋」
「おかあさん?…出てあげて?」
「わかった」
通話ボタンをスワイプして電話に出た。
「お袋?うん、どうしたの?」
母親から急にかかって来るのは珍しい。
「え?なんて?…はぁ!?ほんとに?うん…うん…わかった…また連絡する…うん…おやすみ」
電話を切って呆然とする。それに気づいたルナは、子供のように腕を引っ張り、「どうしたの?」と聞く。
「親父が…倒れた…」
「えっ!?嘘…」
「ルナに嘘つくわけないだろ?」
ルナの父親は、ルナが生まれてすぐに他界した…ルナの実家がうちの近所だった事もあり、ルナの母親とうちの両親が、かなり仲良くなったため、うちの親父がルナの父親同然だったのだ。
「そうだよね…お父さんの容態は聞いたの?」
「うん…脳卒中だってさ…手術はするらしいけど、五分五分だって」
「…」
ルナは暫く沈黙した。
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